「自由にものが言えるから」自民党に入った政治家 わずか65日の石橋湛山政権をいま問い直す意味

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そして、石破氏が「なんで自由党なのと聞かれた湛山先生が、『何もないからだ』と答えています。何もないから自由にものが言えるのだと。そもそも、日本国憲法には政党の規定がないのです。私は、自民党の憲法改正草案の起草委員でしたが、きちんと政党に関する規定は政党法によって法律で定めるべきだと主張しました。政党助成金という権利を享受するのに、義務を果たさない存在があっていいはずがない。政党はきちんと国民と向き合い、この党の主張はこれだと侃々諤々(かんかんがくがく)の議論の末に国民に提示しなきゃいけない。仲良しクラブじゃないですから、政策が全然違う人が同じ政党でいること自体がおかしいと思うのです。それで私は、あまり支持がないわけですね(笑)。『お前は何でそういう理屈ばっかり言うのだ』と。ただ、政治家である私たちは、主権者たる国民とどう向き合うべきなのか。私はそれを湛山先生が書いたものを読み、勉強しています」と、まとめました。

湛山が「自由に発言できる」という視点で政党を選んだのだとすれば、発言しない政治家は、自らの考えに合わない政党に属しているから言いたいことが言えないということなのか。そうだとするのなら、本当に政党は必要なのかという疑問もわいてきます。

同時に、石破氏が国民には人気があっても、自民党の議員に支持されない(笑)理由が少しずつ見えてきたような気がしました。

外交は功利主義であるべき

さて、話は、世界を二分しかねない米中問題へと進んでいきます。モデレーターの船橋氏は、「いま、米中の対立時代、もはや対決時代みたいな恐ろしさを感じていますが、いまの中国を考えたときに、湛山の思想や大きな構想から学ぶべきもの、われわれに対するヒントがあるのでしょうか」と問いかけました。

その問いに答えたのは石破氏でした。

石破茂(いしば しげる)衆議院議員。1957年鳥取県生まれ。1986年旧鳥取県全県区より全国最年少議員として衆議院議員初当選、以来11期連続当選。防衛庁長官(第68代・第69代)、防衛大臣(第4代)など数々の要職を歴任(撮影:尾形文繁)

「これはいま自民党の中でも大議論をしていますが、アメリカ大統領がトランプ氏からバイデン氏に代わり、人権に強い意識を持っている民主党政権だからさらに強硬になるかもしれない。最初の賓客が菅総理でよかった、よかったという話ではないのです」

先日行われた日米首脳会談を引き合いに出した後、こう続けました。

「湛山先生は、『私は永遠の日中友好なんて望んでいない。永遠なんていうことがわかるわけもない。いまが大事なのだ。いまをよくしないで永遠なんていうことに意味はない』のだと。誤解されるかもしれませんが、『あくまで外交は功利主義的でなければいけない。相手に利益を与えないで何でこっちの利益が得られるのか』ともおっしゃっている。私もその精神を持ちつつ、湛山先生がなぜ、岸総理の日米安全保障条約の改定に激しく反対したのかということとセットで学ぶ必要があると思っています」

これは、なかなか深く、難しい問題です。湛山は、日本が急速に帝国主義に傾倒していた太平洋戦争下でも「世界平和」を唱え、国家からの弾圧にも屈せずに、持論を述べ続けてきた経済ジャーナリストであり、アメリカの下で戦後の経済を立て直していたときですら、「アメリカの主張ばかりを日本に押し付けられては困る」と、日本のためにならないことや世界平和のためにならないことには、真っ向から立ち向かいました。

しかし、前回の記事「日本の近現代史を正した『たった4票』の重み」にも書いたように、湛山の後を引き継いだ岸信介は、湛山の方針をあっさりと翻し、新安保条約に調印しました。そして、その路線は、岸の孫にあたる安倍晋三・前内閣のみならず、現在の菅内閣へと受け継がれています。

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