ケインズ「一般理論」が今でも実用性の高い理由 池上彰×山形浩生「教養としての経済学」対談
山形:そうですね。『一般理論』のわかりにくいところは、経済の基盤としてあまりに広く受け入れられすぎていて、かなりの部分が常識と化しているところです。
かつては、景気が悪いときは、金持ちの貯蓄を投資に回すために金利を上げなければならない、という話になっていました。『一般理論』はそれと戦っています。しかし、現代では「なに当たり前のことを言っているの?」と思われてしまうでしょう。
いろんなことが当たり前になって、完全雇用も実現された。すると、当然ながら、もうケインズの理論に沿って公共投資なんてしなくてもいいよね、ということになっていきます。しかし、リーマンショックで、やはり金利を下げて公共投資もしなければならないという、一番基本のケインズが戻ってきたんですよね。
クルーグマン「やはりケインズが正しかった」
アメリカの経済学者ポール・クルーグマンは、日本がバブルで、アメリカが低迷しているときに、「やはりケインズが正しかった」と言っていました。「ケインズは死んだ」とまで言われていた当時としては、かなりとんでもない発言でしたが、結局、それが主流になってきました。
新ケインズ派は連綿と生き残ってきましたが、古いケインズ派がこうして注目されているのは面白いことです。高度すぎず、泥臭く、雑な部分のあるケインズというのをもう一度出してあげたいという気持ちで本書に取り掛かりました。
普通に解説を書いてしまうと、より精緻に理解しようという内容になります。でも、あまり細かくないところがよくて、もっといい加減に理解すればいいのだということが伝われば嬉しいですね。
池上:一般の人は「不景気になると金利を下げるものだよね」となんとなく当たり前のように思っていますが、本書を読むと、その理由は、投資で得られる収益と、金利の差によって景気対策をするためだという理論的な裏付けがきちんと理解できますね。
山形:原書では、ケインズは、「こうしてもいいけど、そこまで無駄なことはやらなくてもいい」という持って回った言い方をしています。ですから、人によって解釈が違うこともあるんですよ。
池上:そうですね。くどくど書いてあるところも、注意深く熟読すれば誤解しないんですけども、面倒に感じる人のほうが多いでしょうしね。
山形:熟読しすぎてかえって誤読する人もいます。