ケインズ「一般理論」が今でも実用性の高い理由 池上彰×山形浩生「教養としての経済学」対談

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池上:そう考えると、山形さんの、雑な理論で、ざっくり理解できればいいんだよというご意見は目から鱗でした。なるほど、なにも精緻に詰めていかなくても、実際の政治の場でうまく生かせればいいでしょ、と。そういう意味で、ケインズは、実用性、実理性の高い理論だったんだと改めて思いましたよ。

山形:ケインズは数式を嫌っていました。数式にすると0.1%の差にどんな意味があるのかという議論がはじまってしまいますが、そんなことはいいから、だいたいの方向で柔軟にやればいい、と。

厳密に考えれば、例えば、コロナで給付金を配るのはケインズ政策に合っているのかというような議論になっていきます。でもケインズ本人は、どっちでもいいのではないかという感覚を多々出しているんですね。まじめに読む人は、逆にそこにはまってしまうことがあるので、もっと大雑把でいいんですよ。

「バンコール提唱」はケインズの慧眼だった

池上:第1次世界大戦のあと、ケインズはドイツに対して損害賠償なんか支払わせてはいけないんだと言いましたが、それが聞き入れられず、結局、ヒトラーが登場しました。

そして、第2次世界大戦のときには、ブレトンウッズ体制だったアメリカのホワイト案に対して、ケインズは、ある種のバーチャルな国際通貨「バンコール」を提唱しています。

これも採用はされませんでしたが、のちに、アジアの通貨危機が起きるたびに、やはりバンコールは大変な先見の明があったなあという評価になったわけです。ものすごい慧眼ですよね。

山形:第1次世界大戦のあと、ケインズは金本位制をやめろとずっと主張していました。イギリスは一度やめて、また戻ってひどいことになり、そしてまた廃止という経緯もあります。

しかし、第2次世界大戦のあとは、ケインズも軌道修正して、全く完全に、相対的に動くのは不安定すぎるから、バンコールのようなやり方を置こうという話になったわけです。

その意味では、ケインズの考えもすこしふらふらしていたところはあります。彼が死ぬときに『一般理論』の続編を準備していたと言われているのですが、それがどんな内容なのかは知りたいところです。

池上:エンゲルスが仕上げたマルクスの『資本論』のように、メモぐらい残っていればね。

マルクスの晩年の記録は、実は、ソ連の思想に合わないものとしてまったく公表されませんでした。ソ連が崩壊した結果、いろんな記録が出てきて、特に晩年には、地球環境について考えていたという新たな発見もありました。ケインズも、そういったものがどこかから見つかると面白いですね。

山形:今年、ケインズの愛人が隠していた絵が大量に出てきたんですよ。まだ中身が公開されていませんが、ケインズの絵もあるに違いないとみんな楽しみにしています。まだまだ資料が出てくる可能性はありますね。

(後編は5月28日配信予定。構成/泉美木蘭)

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