車椅子が「かっこいい乗り物」へと変わる理由 「企業と生活者が共に紡ぐ物語」の脚本づくり

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しかし、パーセプションの壁が立ちはだかる。WHILLはどうしても「車椅子」と認識されてしまうのだ。それは仕方のないことで、ぱっと見はどう見ても車椅子。

しかし本当の壁は、車椅子と聞いて一般の人が想起するイメージだ。障がいを持っている人が乗る、あるいは、足腰が弱って歩けなくなった高齢者が乗るもの、というイメージがある。しかしWHILLがうたっているのは、革新的な新しい移動手段としてのパーソナルモビリティ。そのギャップをどうしても埋めたい。

まずは車椅子のイメージ調査をした。すると車椅子を最も意識するのが60代だということがわかった。少し足腰が弱ってきた、けれども元気で散歩にも行ける、まだ車椅子なんかいらないと思っている。そしてまだまだ人の手を借りずに人生を楽しみたい。彼らの40代の子世代も、両親にはまだアクティブで生き生きしていてほしいと思っている。

WHILLのユーザーにも調査すると、歩行時に少しだけ杖を使うが、趣味が多くて友だちも多いということがわかった。WHILLであれば、車椅子のように人に押されることなく、自分の意思で動き回れる。こういうパーセプションを獲得したい。そして歩行とWHILLの共存が訴求ポイントだということがわかった。

「フレイル」と「生活不活発病」

次は、この世代を取り巻く健康上のリスクを調べた。例えば認知症。WHO(世界保健機関)が2019年に発表した、認知機能の低下のリスク低減に向けた初めてのガイドラインでも、知的活動、社会活動が必要だと説く。つまり、人間はいくつになっても動かないとダメなのだ、という認識は世界共通なのだ。

そして「フレイル」。日本老年医学会が2014年に提唱した概念で、「Frailty(虚弱)」のことだ。近年、要介護の一歩手前の状態を指す言葉としてよく用いられている。年をとると心身の活力が低下し、身体機能、社会性、メンタルが虚弱になるが、適切な治療や予防をすれば、要介護に進まずにすむ可能性もある状態。高齢化社会日本ではキーワードとなる。

厚生労働省では「生活不活発病」の注意も喚起している。これは、動かない(生活が不活発な状態)ことが続くことで心身の機能が低下、「動けなくなる」ことを指す。災害時の避難所暮らしにおける注意として一般に知られるようになり、とくに高齢者や持病のある人がなりやすい。

これらをまとめると、社会とのつながりが減ると、生活範囲が狭まり、メンタルが弱くなり、フレイルになっていく……その悪循環を断ち切ることで、認知症リスクを低減できる。

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