さらにエコノミスト的にマジレスさせてもらうと、コロナ前までのアメリカ経済はずっと成長が続いていた。ということは、経済政策は成功していたのであろう。ところが社会的には格差が拡大し、政治的にも分断が広がっている。それはおそらく分配政策の失敗であろう。だったら、そこは所得の再分配などでミドルクラスを救済すべきであって、外交政策に罪をかぶせてはいかんのではないだろうか。
などとツッコミどころはいろいろあるのだが、海外の外交・安全保障の専門家からは「ミドルクラス外交」を支持する声もある。今の不安定な国際秩序の中では、やはり「強いアメリカ」に戻ってきてもらいたい。そのためにはなるべく多くのアメリカ国民の支持が必要なので、むしろ同盟国として応援すべきではないか、というのである。日本の立ち位置を考えれば、確かにそういう考え方もアリだろう。
ところで外交と経済が交差する分野に「対外援助」がある。この政策は、評判が悪いことが多い。国内にも困っている人が居るのに、なぜ税金を使って他国を助けるのか、という批判はつねに存在する。ただし「情けは人のためならず」なので、長い目で見れば援助は報われるし、いずれは国益に結びつく。実はカーネギー財団が行ったヒアリングでも、アメリカのミドルクラス層は対外援助の必要性に対して一定の理解を示している。
「ミドル」の再生は本当に可能なのか?
ただしそのためには、「アメリカ外交は自分たちに利益をもたらしてくれる」という信認が必要である。「外交はエリートたちが勝手にやっていることで、お陰で自分たちの暮らしは酷くなるばかりだ」と思われていると、またまたトランプ大統領のような人が出てきて、外交官や専門家の努力を全否定する恐れがある。あるいは「Qanon」(キューアノン)などというグループが登場して、面妖な陰謀論になびく人が増えるかもしれない。
あらためて外交の世界でなぜミドルクラスが重視されるかというと、ひとつの国の中で収入が近い「中間層」の意見は、ある程度一致していると考えられるからであろう。民主主義国においては、「世論」(せろん=Popular sentiment)ならぬ「輿論」(よろん=Public opinion)が重要であり、それはミドルクラスによって形成されることが多い。
ところが今のアメリカでは、教育水準や住んでいる場所、世代や主義主張などで大きく意見が割れてしまっている。バイデン政権にとって重要なのは、国民の収入を上げるのもさることながら、アメリカにおける思考の「ミドル」を再生することであろう。それなしには外交もやりにくいのだが、はたしてそんなことが可能なのだろうか?(本編はここで終了です。次ページは競馬好きの筆者が週末のレースを予想するコーナーです。あらかじめご了承ください)。
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