こんなに「日本企業がケチになった」根本的な原因 「賃上げ」も「設備投資」もしなければ縮小は必然

拡大
縮小

個人消費がデフレの原因になっていない以上、日本政府として需要を喚起するためには、とにもかくにも、企業の設備投資を喚起するべきです。そのために、MMTを真剣に考える価値はあります。MMTは、企業投資を喚起する「薬」になりうるのです。

一方、企業の設備投資の問題に手をつけずに、ただ消費税をゼロにするだけでは、経済が持続的に回復するとはとても思えません。こういったMMTの使い方は「毒」になります。

そうした意味で、菅政権が掲げているグリーン投資、ICT投資を全国の全企業に徹底させる戦略は正しいと思います。大企業のみならず、大半の労働者を雇用している中小企業も例外なく実施するべき戦略です。

輸出も需要の1つですから、需要を喚起するもう1つの重要な政策です。観光戦略はその最たる例です。

最後に、需要のうち最大のものが個人消費ですから、これまでずっと低下傾向にあった労働分配率を元に戻すべきです。それには、諸外国同様に、コロナであっても、経済を支えながら最低賃金を引き上げるべきです。

企業の緊縮戦略は「lose-lose」戦略である

私は長年、経済を供給側から分析して、「生産性向上」と「輸出の増加」と「最低賃金の引き上げ」を訴えてきました。今回は、経済を需要側から分析してみました。まったく違う方面から見ても、ある意味で当然、まったく同じ課題が見えてきました。

日本経済は、人口問題に対応するために、労働者の給料を上げる必要があります。それには生産性を高めるべきです。それには設備投資が必要です。生産性を高めた分だけ、個人の所得が増えるように、労働分配率を高めなければなりません。

労働分配率の上昇によって個人消費が増え、それにともなって企業の売上も増えますから、企業も儲かります。「win-win」です。

日本は、新しいことに反対する傾向が強いです。それは、「win」があると必ず「lose」があると考えるからであるように思います。とても日本的な、消極的な思考です。しかし、世の中には、「win-lose」だけではなく、「win-win」もあります。

日本企業がいまとっている、労働分配率を下げながら投資をしない戦略は、一見「win-lose」に見えます。短期的には、企業が「win」するからです。しかし、長期的に見ると企業も労働者も損ばかりの「lose-lose」戦略になっています。

ICT投資をして、輸出もグリーン投資も増やして、人材投資もして、労働分配率を高める戦略こそが、真の「win-win」戦略なのです。

次回は、コロナ禍における海外の最低賃金の動向を検証します。

デービッド・アトキンソン 小西美術工藝社社長

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David Atkinson

元ゴールドマン・サックスアナリスト。裏千家茶名「宗真」拝受。1965年イギリス生まれ。オックスフォード大学「日本学」専攻。1992年にゴールドマン・サックス入社。日本の不良債権の実態を暴くリポートを発表し注目を浴びる。1998年に同社managing director(取締役)、2006年にpartner(共同出資者)となるが、マネーゲームを達観するに至り、2007年に退社。1999年に裏千家入門、2006年茶名「宗真」を拝受。2009年、創立300年余りの国宝・重要文化財の補修を手がける小西美術工藝社入社、取締役就任。2010年代表取締役会長、2011年同会長兼社長に就任し、日本の伝統文化を守りつつ伝統文化財をめぐる行政や業界の改革への提言を続けている。

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