こんなに「日本企業がケチになった」根本的な原因 「賃上げ」も「設備投資」もしなければ縮小は必然
では、なぜ企業が投資をしないのか、その理由を考えてみましょう。
ペンシルベニア大学の「The Decline of U.S. Corporate Investment」によると、企業が投資をするとき、主に(1)将来の利益の機会、(2)資金調達コスト、(3)税制や経済政策を考慮します。
この論文の分析によると、さまざまな定量的分析の結果、「(2)資金調達コスト」はあまり影響していないとされています。欧州の分析でも同じ結果が確認されています。金利が下がっていますし、金融機関が貸し渋っている実態も確認されていないそうです。
「(3)税制や経済政策」に関しても、そこまで強い影響はもたらさないようですが、後ほどこの問題に戻りたいと思います。
すると、企業は「(1)将来の利益の機会」を最も重視しているといえます。これに大きな影響を与えるのが、各国の人口動態です。
「The Decline of U.S. Corporate Investment」によると、アメリカの1950~2016年の間の経済成長の約半分は、生産年齢人口の増加によるものでした。アメリカでも生産年齢人口の伸び率の低下が、企業の設備投資の低迷につながっているとあります。
従来、成長の半分を支えていた消費者の増加によって利益が得られると考え設備投資をしてきた企業の設備投資意欲が、消費者の増加による売上の増加がこれまでほど見込めなくなってきたので低下していると分析されています。データ分析の結果によると、企業投資の低迷のうち、3分の1から3分の2までが人口増加率の低下で説明できるとあります。
欧州中央銀行が2018年10月に発表した、100ページにも及ぶ「Business investment in EU countries」でも、企業の設備投資が低迷していることを多面的に検証しています。
その分析でも、資金調達コストや政策などのリスクは、今の設備投資低迷に対して、大きな悪影響はないと結論づけています。人口の増加率が低下していることが主な要因の1つと分析しています。
また、先述したアメリカの分析と違って、近年、財政が苦しいEUの国を中心に、政府による投資の減少が企業投資の減少に大きな影響を与えているとあります。ここで言う「政府による投資」とは、単なる財政支出ではなく、「日本人の知らない経済政策『PGSを増やせ!』」で説明したPGS(生産的支出)のことです。民間の設備投資をリードし、その投資効果を高めるような投資を指しています。
たしかに、途上国に比べて、先進国の企業投資は相対的に低迷しています。それは、人口動態の違いに加えて、途上国はキャッチアップするための投資がまだ必要だからです。
日本企業が投資をしない理由
では、日本企業が投資を減らしている理由は何なのでしょうか。需要見込みに影響を与えるものとして、以下のものが考えられます。
企業は今の需要ではなく、将来の需要を見込んで設備投資を決めます。だから当然、人口減少は企業の設備投資に悪影響を与えます。
需要は「消費者の数×単価」で決まります。となると、消費者の数は多くの既存商品とサービスの見込みに大きく影響します。
製造業の例で説明しましょう。人口減少によって、今80万台ある自動車の売上が40万台まで減少すると予測すれば、新しい工場を建てないのはもちろんのこと、既存の工場の中でも設備の更新を控えたり、既存工場を減らしたりすることは十分考えられます。
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