中国は63カ国に無償、有償でワクチンを供給しており、東南アジア(ASEAN10カ国のうちベトナムを除く9カ国)やスリランカ、ネパールなどのインド近隣諸国、さらにはハンガリーやセルビアなどの中東欧諸国など、幅広く供給している(THE|DIPLOMAT/The Logic of China’s Vaccine Diplomacy/2021年3月24日配信)。
興味深いのは、無償で提供する場合は数万から十数万回分と少量である。これだけの量しかなければ、公衆衛生上の集団免疫を獲得できないが、一部のエリートや富裕層には行き渡る。また、いくつかの国は無償の提供を受けた後、有償で数百万回分を調達しており、ワクチン外交が「試供品」のように扱われている側面もある点である。
ロシア、中国ともに注目すべきは、国内でのワクチン接種よりも輸出を優先しているという点である。ロシアは3月中旬の時点で550万人に1回目のワクチン接種を実施しているが、これは人口の3.8%にすぎない。また、中国は6月末までに人口の40%に接種を終えることを目標としているが、4月中旬の段階で人口の12.5%しかワクチンを接種していない。こうした輸出優先のワクチン戦略を実施できるのは、まさに専制主義体制のなせる業といえよう。
民主主義体制のワクチンナショナリズム
他方で、多くの感染者と死者を出し、ロックダウンなど強制的な措置を導入したにもかかわらず感染拡大を抑えきれない状態を経験した欧米諸国において、ワクチンはコロナ禍から抜け出す唯一の手段といっても過言ではない状態であった。
そのため、国内で生産されたワクチンは優先的に国民に向けて配分し、一刻も早くワクチンによる集団免疫を獲得することが最優先事項となった。そのため、ワクチン生産能力を持つアメリカもイギリスもワクチンの国外への供給は制限されており、EUも輸出規制をかけて域内でのワクチン供給を優先した。
こうしたワクチンナショナリズムが席巻する中で、民主主義体制に光明をもたらしていたのはインドであった。インドはジェネリック医薬品の製造などで高い実績があり、度重なる感染症の経験からワクチン開発の技術基盤も生産能力もある国である。そのため、3月に行われた日米豪印(いわゆるクアッド)の首脳会議では、中国のワクチン外交に対抗するものとして期待されたのがインドからのワクチン輸出である。
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