「カジュアルな孤独対策」がいまこそ急務なわけ コロナで深刻化、不安と退屈にどう向き合うか
鈴木氏は4年前に自ら感じた子育て中の孤独を振り返る。「長女を産んで間もないころ、何をどうやっても泣きやまない。そのときは死ぬほどかわいい我が子に全否定される感覚だった。お前ではダメ、満足できない、安心できない、と言われている気持ちになった」。
母乳を飲んでくれないと焦る鈴木氏に、夫が気遣って「粉ミルクを飲ませたら」と言葉をかけたが、鈴木氏には「さらに自己否定されているように突き刺さった」と言う。
警察庁によると、2020年の自殺者は前年より912人増えて2万1081人となった。11年ぶりの増加で、特に女性が7026人と過去5年で最多となっている。若者の自殺も目立ち、コロナ禍で生活が行き詰まったり、休校で孤独になったりする生徒や学生たちの姿が想像される。
見えにくい孤独にこそ政府支援を
孤立とは「家族や地域社会との交流が、客観的にみて著しく乏しい状態」(平成22年版高齢社会白書)と定義されるように、客観的状態とされる。一方、イギリス政府が採用している孤独の定義では、「人間関係の欠如、不足という主観的で望まない感情」「社会的関係の質や量について、現状と望んでいるものが一致していないときに感じる」とされる。
独身や1人暮らしのように、あえて孤独な環境に身を置くことに満足している人もいる。他方、有名芸能人の自死が物語るように、社会的には成功しているように見えても、何らかの孤独を抱えている人もいる。
孤独は主観的な感情、体験ゆえに見えにくく、だからこそ政府による全面的な対応が必要であると鈴木氏は説く。「孤独は生まれながらの感情で、誰もが持ちうる。コロナ禍で人との接触が減っているいま、政策としてその手助けを打ち出すことが必要なのではないか」(鈴木氏)。
この「誰もが日常の中で感じる孤独」について、かつて「不安」や「退屈」という気分を切り口に深く洞察した哲学者がいた。今年没後45周年を迎えるドイツの哲学者、マルティン・ハイデガーだ。
ハイデガー研究で知られる学習院大学の陶久明日香教授は「ハイデガーにとって不安は、『死』という自分しか引き受けることができない特別な可能性に関係するもので、自分の身の回りのものすべてが意味を失い、崩落するような感覚だ。
一方、退屈は『時間』とリンクし、深い退屈においては自分が管理しているはずの時間をコントロールできなくなり、あらゆるものがのっぺりとした時間に呪縛され、それを受け入れるしかない。不安も退屈も、よりどころがなく孤独だということが特徴。周りから置き去りにされる気分だ」と解説する。
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