「カジュアルな孤独対策」がいまこそ急務なわけ コロナで深刻化、不安と退屈にどう向き合うか

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そのうえで陶久教授は、「不安や退屈、孤独感は、何らかの要因でもたらされるというよりも、人は本質上、そうした気分の中で生きている」と言う。人はみな死から逃れられない以上、本来は不安であり、退屈からも逃れられない。

こうしたネガティブな気分から逃れるために人々は流行を追い、他人と同じように思考し、向き合わないようにしている。仕事や経済活動、政治活動のすべての日常生活は、この根本的な気分から逃れようとする営みだとハイデガーは考える。

「ネガティブな気分を覆い隠すために勉強をする、仕事に励む、頑張ってお金を稼ぐ。それで社会が成り立っている。別の言い方をすれば、日常生活を動かすモーターが孤独であり、不安であり退屈である」(陶久教授)

重要なのは気楽に構えること

不安や退屈といった嫌な気分は常に迫ってくる。そうした気分に迫られながら、同時にそれを排除しようとしながら生きるのが日常生活だとハイデガーは考える。現代人がSNSで「いいね」をたくさんもらい、不安や退屈を抑え込むかのような行動は、特に象徴的だ。「SNSがこれだけ流行るのは、孤独や不安、退屈を人々が日々、強く感じていることの裏返しと説明できるかもしれない」(陶久教授)。

ハイデガーが説いたように、人々の日常と孤独や不安、退屈が表裏一体なのだとすると、大上段に構えた孤独・孤立対策よりも、日常生活に溶け込んだような対策が有効なのかもしれない。

鈴木氏らは、社会的孤立対策としての相談体制の拡充、IT技術から高齢者らが取り残されるデジタル孤立の防止策とともに、「国立公園の探索ツアー」「美術館・博物館入場券配布」「スポーツ参加」「ワーケーションとの連携」などを提言している。「こうした対策は、どっかりと腰掛ける椅子ではなく、気楽に座れるカウンターのスツールのようなイメージ。日常生活の中で、ちょっとしんどいと感じたときに、すっと寄りかかるようなよりどころをつくりたい」(鈴木氏)。

いつでもどこでも、誰もが感じうる孤独が深刻になる前に、それを気軽に吐き出し、話し合えるカジュアルな仕組みづくりが必要だ。政府のコロナ対策に不満が募る中、世界に先駆けて孤独・孤立対策を進められるか。政府の推進力がここでも問われる。

森 創一郎 東洋経済 記者

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もり そういちろう / Soichiro Mori

1972年東京生まれ。学習院大学大学院人文科学研究科修了。出版社、雑誌社、フリー記者を経て2006年から北海道放送記者。2020年7月から東洋経済記者。

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