米国エリート教育と第1次世界大戦の深い関係 GAFAがリベラルアーツ教育を重視する理由
これらのリベラルアーツのカリキュラムには、“生みの親”と呼ぶべき人物が存在します。当時のコロンビア大学の学長ハーバート・E・ホークス、通称ディーン・ホークスです。
「ディーン(dean)」とは「学部長」を指します。コロンビア大学は、学部教育のカレッジや、ビジネススクールやメディカルスクール、ロースクールやグローバルポリシーといった専門職大学院など、複数の独立した組織からなる総合大学であり、それぞれのトップが「ディーン」と呼ばれました。ホークスはカレッジのディーンでしたが、日本的な感覚で言えば「学長」に近いでしょう。
もともとは数学教師でしたが、一般教養の教育(general education)に熱心で、1918年の着任から1943年の逝去によって退任するまでの25年間にわたり、ひたすらコア・カリキュラムの発展に尽くしました。しかしその方針は、必ずしも当初から歓迎されたわけではなかったはずです。
コロンビア大学が最高峰となったゆえん
大学には、12世紀ごろにイタリアで教員組合として発足して以来、ガバナンスを教員主導で行う伝統があります。また当の教員は、幅広い教養より自身の専門分野に関心を向けがちです。あるいは古典や歴史をひもとくより、現代時事や職業的有用性に沿った教育を期待する声も学内外にありました。したがって、一般教養など軽視する声が多数を占めていたことは容易に想像できます。
それでもホークスは普及に情熱を傾け、いつしか軽視どころか「リベラルアーツ」として大学のコア・カリキュラムにまで昇華させたのです。また同様の教育は、ほかの各大学にも波及しました。その功績から、「全米を代表するディーン」という意味でディーン・ホークスと呼ばれるようになったのです。
それからおよそ100年が経過した今、コロンビア大学のリベラルアーツ教育は、全米でも最高峰とされています。もちろん時代とともに少しずつ修正や変更が加えられてきましたが、前出の“Contemporary Civilization”と“Literature Humanities”の2つがコア・カリキュラムであることは変わりません。これらは、すべての学生にとって必修科目となっています。
加えて、“Art Humanities(美術人類学)” “Music Humanities(音楽人類学)” “Frontiers of Science(先端サイエンス論)” “University Writing(エッセイ指導コース)”の4つもコア・カリキュラムに含まれます。つまり、「哲学」とともに「美術」「音楽」「サイエンス」「文章の書き方」を同時に学ぶわけです。
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