中台対立で台湾を刺激したウクライナ人女性

台湾に帰化した女性への批判がアイデンティティー論争に

しかし、問題は単に個人への中傷非難で終わらなかったのがこの事件がどれほど特殊だったかを物語っている。台湾の小学校で指導する中国出身者がネット上での中傷非難に関わっていることがわかってきたのだ。

特定された人は新体操経験者で、桃園市の小学校で指導し、台湾国籍も取得している。ただ、4月22日にラリーサさんが鄭文燦・桃園市長の来訪を受け、一緒に写った写真をSNSへ投稿したことから、ラリーサさんへのやっかみで今回の匿名掲示板への投稿につながったと見られている。

中国が言う「同種同文」という虚構

さらにかつてSNSでの投稿で、中国人と台湾人は「同種同文」(ルーツが同じで、言葉も同じ)であることを強調した内容の投稿も、台湾のネット世論の火に油を注いだ。「同文で同種だと言う中国人が、なぜ無数のミサイルで恫喝し、軍機で頻繁に領空を侵犯するのか」、というのだ。

一方で、「ウクライナ国籍を捨ててまで台湾を愛するラリーサさんこそが真の台湾人だ」という声が相次いだ。人々の台湾アイデンティティーが刺激され、ラリーサさんの傷心ぶりをつづった投稿への励ましと擁護のコメントは今も続いている。ちなみに「炎上」ぶりが投稿者に伝わったのか、中傷非難した掲示板への投稿は削除されている。

これは本当に中国による「統一工作」の一環だったのか。その真偽は今でもよくわからない。ただ、現在の台湾社会が「言葉」や「ルーツ」よりも、台湾への認知や愛着の「台湾アイデンティティー」を重視している状況が改めてわかったことは間違いない。

台湾は2021年8月28日にエネルギー問題などに対する住民投票、2022年には地方統一選挙があり、政治家はこうしたアイデンティティーに関係する世論の動向に敏感になってきている。ラリーサさんの傷心投稿へ多くの政治家がコメントを残している状況から見ても、アイデンティティーの問題はどんなに些細な事件でも台湾では気になってしまう、目が離せないものとなった。

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