中台対立で台湾を刺激したウクライナ人女性 台湾に帰化した女性への批判がアイデンティティー論争に

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無給で始めた指導だが、ライセンスの問題にぶつかったため、国際ライセンスをシンガポールまで行って取得した。台湾で初めて国際ライセンスを取得したラリーサさんの下には全国から選手が集まるようになり、さまざまな試合で優秀な成績をたたき出すようになった。さらにウクライナでの人脈も使って、かつてのチームメイトでメダリストのアンナさんまでを台湾に呼んで指導したのだった。

台湾では有名なタレントでもあるラリーサさん(写真・本人のFacebookより)

世界トップレベルの元選手が、インフラも人気も今一つの台湾で指導する。新体操がメジャーとは言えない台湾で、メダリストがわざわざやって来て指導することは異例中の異例といえる。既存の協会団体がなかなかできないことを、ラリーサさんは個人の力でやっていたことになる。

旧態依然とした台湾のスポーツ団体

さらに2020年1月、ラリーサさんは選手を連れて、アメリカで行われた新体操の国際大会LA Lights 2020に参戦する。予想を大きく覆す奮闘ぶりで金2銅3のメダルを獲得し、悲願ともいえる国際試合での優秀な成績をたたき出した。しかもこの間の旅費などの費用は、すべてラリーサさんが拠出したという。選手たちに国際経験を積んでほしい一心だった。

台湾は中国国民党による長年の独裁的統治の影響もあり、さまざまな団体協会が本来の目的を見失い、利権や汚職の温床になってしまっている。とくにスポーツに関する団体協会は「お国のために」の号令で選手を招集し、一方的で不便なことを強いることが多い。

日本でも財政状況が厳しい団体協会でよく見られる現象だが、国際的に孤立する台湾にとって、国際試合は自国をアピールする重要な場でもある。そのため金銭問題だけでなく、政治も絡むやっかいな問題でもある。

そのような中、ラリーサさんの登場は、台湾新体操界にもある旧態依然とした体質に風穴を開けた形となった。当然、既得権益にあずかり快く思わない人々もいる。そのような人たちにより、先の匿名掲示板での中傷非難へとつながったのだった。

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