トヨタが水素エンジンでレースに挑む深い意味 EV化だけがカーボンニュートラルの解ではない
4月28日朝、来る富士24時間耐久レースの公式練習走行日となっていた富士スピードウェイのいちばん端のピットでは、この日が実質的な初走行となるマシンの走行準備が着々と進められていた。そのマシンこそ、前週22日にトヨタ自動車の豊田章男社長、そして同社GAZOO Racingカンパニーの佐藤恒治プレジデントによる会見で突如発表された、水素エンジンを搭載した「カローラスポーツ」をベースとするレーシングカーであった。
トヨタで水素と聞いて真っ先に思い浮かぶ燃料電池自動車(ちなみにFCV)は高圧タンク内に貯蔵した水素を酸素と化学反応させて生み出した電気を用いて、電気モーターで駆動する車両だ。対する水素エンジンは、水素をガソリンなどと同じように燃料として、内燃エンジンで燃焼させて使用する。
豊田社長の「レースに出よう」から4カ月で準備
水素エンジンの技術自体はさまざまなメーカー、そしてアカデミーなどで長年研究されているものだ。トヨタ社内でも先行技術開発の一環として手がけられ、実はナンバー取得したテスト車両もあったという。しかしながら今回のプロジェクトが始まったのは、昨年末、それをテストした豊田章男社長が「これでレースに出よう」と言ったことがきっかけ。ここまでわずか4カ月で準備が整えられた。
石橋を叩いて叩いて、やっぱり渡らないとか、完璧な技術が出来上がるまでは世に出さないといった、かつてのトヨタのイメージとは、まるで真逆のやり方。通常ではありえないスピードだが、佐藤プレジデントは「これが今のトヨタなんです」と言う。今のトヨタとは、要するに豊田章男社長が就任以来、変革してきた会社の姿である。
水素エンジンの本体はGRヤリスに搭載されている直列3気筒1.6Lターボユニットそのもので、専用の燃料インジェクターや配管などのほかは、ほぼ市販車そのままだという。水素エンジンに特化するなら、燃焼室形状を変更するなど違った方策もあるだろうが、今回は可能な限り低コストでの実現を目指すゆえに、あえてこのようなかたちとされている。
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