トヨタが水素エンジンでレースに挑む深い意味 EV化だけがカーボンニュートラルの解ではない

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車体を「GRヤリス」ではなく「カローラスポーツ」にしたのは、技術的には高圧水素タンクの搭載スペースを稼ぐのが理由だ。本来なら後席がある場所には、張り巡らされたロールケージの向こうにCFRP製キャリアに固定された4本の高圧水素タンクが搭載されている。燃料電池車としてすでに市販されている「MIRAI」のNo.2高圧水素タンクをそのまま2本、そして長さを短縮して2本の計4本で容量は合計7.34kg。MIRAIのタンク容量は5.6kgだからそうとうなボリュームである。

(写真:トヨタグローバルニュースルーム)

高圧水素タンクは頑強なCFRP製キャリアに固定されたうえで前席とは完全に隔離され、ルーフには万が一、水素が漏れた時のために換気口も開けられている。すべてがホイールベースの内側に搭載されているのも、衝突時の安全性を最大限に確保するためだ。この辺りの設計はじめ安全にまつわる要件は、FIAなどとの協議のうえで決定したという。世界初の水素エンジンのレーシングカーに、FIAも大きな関心を抱いているのだ。

(写真:トヨタグローバルニュースルーム)

当然JAF、そして水素充填のための移動式ステーションの設置については富士スピードウェイとも密接な協議を行ったうえでの、今回の参戦であることには触れておかなければならないだろう。そもそも参戦クラスの「ST-Q」も、スーパー耐久レースシリーズが先行開発車両の走行機会として設けたものだ。これらすべての開発、折衝を4ヶ月でと考えると、改めてそのスピード感に舌を巻く。

技術開発で先行したBMWやマツダは頓挫

ではこの水素エンジン、いったいどれだけの性能を実現しているのだろうか。詳しい方なら、かつてBMWやマツダが水素エンジンに取り組み、頓挫した歴史をご存じに違いない。その大きな理由はパワーと航続距離だ。

2006年に限定数が市場投入されたBMWハイドロジェン7は、ガソリンと水素を併用できるV型12気筒6Lエンジンを搭載し、液体水素で駆動していたが、水素モードでの最高出力は260PSに、そして航続距離は200kmにとどまった。同時期にマツダがリース販売したRX-8ハイドロジェンREは、やはりガソリンと水素の両方を使用できる自然吸気ロータリーエンジンを搭載していたが、こちらもガソリンでは210PSの最高出力が水素では109PSにとどまり、航続距離も100kmとされた。

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