京セラ「ガラパゴス」スマホがたどり着いた境地 バッテリー交換可、石鹸で洗える耐久性を追求

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トルクブランドのこれまでの累計販売台数は約140万台と、日本国内だけで年間に1500万台以上売るiPhoneと比べれば、極めて小粒な存在だ。ただ、コアなファン層をがっちりつかむために、ユーザーイベントなどに開発者が直接赴き、ユーザーの意見の取り込みに力を入れている。

本体が丈夫なため、スマホカバーをつけることはほとんどないという(写真:京セラ)

京セラが重視しているのがファンコミュニティーの強化だ。2016年には初めてのファンイベントを開催したとき、当初見込みの20倍にもなる1000人の応募があった。「われわれの商品に、コアなファンがついてくれていると痛感した出来事だった」。湯浅氏はそう振り返る。

それ以降は定期的なイベントの開催やオウンドメディアの開設に取り組んだ。法人向けビジネスが主流の京セラは、こうした消費者向けの取り組みに慣れておらず、試行錯誤の連続だったという。

今後は5G技術の活用も視野に

湯浅氏は「ユーザーからの声を聞くと、この製品は本当に愛されていると感じる。実際多くのユーザーはトルクシリーズをずっと使っていて『これ以外のスマホは持てない』と言ってくれる」と話す。

京セラに寄せられるユーザーからのエピソードも独特で、「海の中に落としたけれども呼び出しができて、画面が光ったので救出できた」「バイクで転倒して自分はケガをしたけれど、トルクは無事だった」といった声があがる。

ユーザーからの声重視は他社製品との差異化にもつながっている。バッテリーを取り外せるようにすることはスマホメーカーにとって本来は合理的ではない選択だ。耐久性を高めることも、顧客の買い替えを抑制してしまう。それでもこうした策を採るのはユーザーからの支持があるからだ。

今後追求するのは5Gをはじめとする最新技術の活用だ。すでに、カメラの画面に気温や位置情報などを重ね合わせる「アクションオーバーレイ」という機能を実装した。もともとスマホに備わっているGPSなどのデータを簡単に統合することでアクションカメラとして使える。アウトドア空間ではつながりづらい5G通信が今後、山や海でもつながりやすくなれば、動画配信などの用途が広がると見込む。

京セラの通信機器事業は2020年、30周年を迎えた。かつてはカメラなどコンシューマー向け商品を多く抱えていた。その後、撤退が続き、スマホがほぼ唯一のコンシューマー製品となった。工場の統合などで黒字を生み出せるようになったが、収益性がなければ待ち受けるのは事業売却や撤退だ。

世界に目を向けると、韓国のLG電子が7月でのスマホ事業からの撤退を決めた。ファーウェイがアメリカからの規制で大幅に出荷台数を減らすなどの特殊事情があっても、スマホのコモディティ化と上位企業による寡占化の流れは止まらない。

京セラの湯浅氏が「われわれの製品は万人受けしない。それでも必要な人がいる限り作り続けたい。そのためにはきちんと稼げる体制を作るのは不可欠だ」と語るが、京セラの「トルク」もこの厳しいスマホ事業の例外ではない。

高橋 玲央 東洋経済 記者

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たかはし れお / Reo Takahashi

名古屋市出身、新聞社勤務を経て2018年10月に東洋経済新報社入社。証券など金融業界を担当。半導体、電子部品、重工業などにも興味。

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