教育移住で脚光「シンガポール」知られざる内実

「人材しかない国」はこうやって作られた

シンガポールはもともとマレー半島最南端の、住民150人と言われる小さな島だったが、1819年にイギリスの東インド会社の社員であったスタンフォード・ラッフルズにより「発見」され、その後イギリス植民地となり、地域の貿易拠点として発展する。日本軍支配を経て、イギリスが1946年にマレーシアから分離して直轄植民地とした。その後自治政権が誕生する。1954年に結成され、今も実質的に政治を独占している人民行動党(PAP)は当初、マレーシアとの合併による独立を目指していた。

しかし、1963年にマレーシア連邦の一州となって独立を果たした矢先、華人とマレー人の対立が激化。マレーシアのラーマン首相はマレーシア国家の安定のために、マレー人優位の国家原理に異議を唱えているPAPが率いるシンガポールを”追放”することに決めたのだ。

シンガポール独立の父である当時のリー・クアンユー首相の演説は私もYouTubeで見たことがあるが、涙で言葉に詰まりながら、奮い立たせるように話す姿が印象的だ。シンガポールはマレーシアから切り離され、水も含む天然資源を持たず、周りの国も友好的とは言えない環境で、独立を迫られた。

そこから、55年。現在の発展をもたらすのは並大抵のことではなかっただろう。資源がない中で、シンガポールには人材しかなかった。人的資本こそが国の経済を支えるとして、教育に力を入れてきた。

エリート官僚の養成の本気度

国家の発展のため、学歴エリートを官僚にすることにも力を割いている。シンガポール政府は近隣のアジア諸国で賄賂や不正がまかり通っている可能性と一線を画しているのか、自国のシステムを「メリトクラシー」と言って憚らない。

「メリトクラシー」というのは、もともとマイケル・ヤングのSF小説に出てくる社会のことで、それまでの属性主義、つまり貴族に生まれたものが貴族になるということではなく、能力主義、つまり学歴などによって測った能力とされるものに応じた処遇を徹底するという考え方だ。

ヤングの小説で描かれる、徹底的にメリトクラシー化した社会では、エリートは自分の能力や業績、報酬を当然視するようになる。「下層階級」はそれまでは教育が公正でなかったからで不平等がなくなれば自分にもチャンスがあると「幻想」を抱けたのが、自分の劣等性を認めなくてはならなくなる。そんな世界をディストピア的に描いている。

昨今もマイケル・サンデル『実力も運のうち―能力主義は正義か?』(2021年)など、メリトクラシーそのものが内包する問題と近年の学歴偏重主義を指摘する声もある。しかし、シンガポールで「メリトクラシー」という言葉が使われるときは大抵ポジティブなトーンだ。

学歴エリートを官僚にするため、シンガポール政府は高校卒業試験で優秀な成績を得た上位数百名に奨学金を出し、米英などの有名大学に送り込み、帰国後に6年など一定の年数政府機関で働くことを義務付けている。

キャリア官僚の給与は民間と連動するようになっており、1990年代からは金融、法曹、多国籍企業の役員のトップ層と遜色ないように連動するベンチマーク制を採用。民間との人の行き来も多いほか、官僚出身でPAPに入るケースも多い。

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