目利き力が磨かれる「アートの題名」4択クイズ アート思考とイノベーションの関係
冒頭の問題、あなたはどの題名を選びましたか?
この3枚一組の絵画は加藤泉さんというアーティストの作品で、題名は「無題」といいます。拙著『アート思考ドリル』の中ではもう少し詳しく解説していますが、題名は鑑賞する人の見方に影響してしまうところもあるので、見る個人がそれぞれの想像力を羽ばたかせて自由に鑑賞してもらうために、題名をつけないアート作品もあるのです。
あえて「無題」とされているのですから、どの題名をつけても間違いとも言えますし、どの題名も正しいとも言えます。それぞれの題名のつもりで作品を鑑賞すると、描かれているものが植物や動物にみえたり、色にメッセージを感じたり、3枚の関係性やポーズに意味があるように思えたり、作品の印象が大きく変わります。
この問題の狙いは「どれが正解か」ではなく、たった何文字かの題名を変えただけで作品体験が大きく変わってしまうのを実感いただくことでしたが、アートが題名1つで変わってしまうように、実はモノや体験の価値も確定したものではありません。また、それは物理的性質や機能に還元できるものでもないのです。
アート思考と「イノベーション」
ピーター・ドラッカーは名著『マネジメント』の中でイノベーションについてこう言っています。
「イノベーションをイノベーションたらしめるものは、科学や技術そのものではない。経済や社会にもたらす変化である。消費者、生産者、市民、学生そのほかの人間行動にもたらす変化である。イノベーションが生み出すものは、単なる知識ではなく、新たな価値、富、行動である」
日本では「技術革新」と訳されがちですが、重要なのは文化や価値の革新であり、それこそがイノベーションなのです。
千利休は「見立て」といって、魚籠や水筒に使われていたヒョウタンを花入として用い、新しい茶の湯の可能性を開きました。ありふれたものの中に新しい価値を見いだす目、価値の捉え方自体の革新がまさに利休のイノベーションだったのです。VUCAと言われるこれからの時代、機能やスペックの競争ではなく、これまでにない視点から価値を見直し、見立てる目が求められています。
アートを鑑賞し、その題名について思い巡らすことからも、こうした価値の目利きの力を磨くことができるのです。
第52回ヴェネチア・ビエンナーレ国際企画展風景 2007年、 加藤 泉《無題》
イタリア館ジャルディーニ ヴェネチア・イタリア
撮影:Giovanni Pancino, Courtesy of the artist
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