日本人に今こそ必要な「あいまいさ」を許す力 社会に蔓延する排他的な思考を打ち破る考え方

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多様化して捉えづらくなった世の中こそ、寛容に受け止める思考が、いまの時代に必要なのではないでしょうか(写真:kelly marken/PIXTA) 
世の中には善か悪かの2つしかなく、一度「悪」と認定されたものは徹底的にたたく──。今、SNSではこうした考え方、行動がよく見られます。SNSに限らず私たちも、よく考えもせずに「彼は悪い人だ」「あの会社はもうダメだな」と決めつけてしまうことはないでしょうか。結果、追いつめられる人が増え、世の中がギスギスしていく……。
「物事を寛容に受け止める心と、自分の頭で考える習慣が必要です」と言うのは、経済学者の竹中平蔵氏です。氏が理想とするのは、かつて松下幸之助氏が遺した、ある考え方。それはどのようなものか、竹中氏の新刊『考えることこそ教養である』をもとに解説します。

答えはAとBの間にある

白か黒か、善か悪か、右か左か。いま世の中を「二項対立」の視点で捉えようとする人が目立ちます。しかし、正しいのはAか、それともBか、とすべてを二項対立で捉えられるほど、世の中は単純ではありません。2枚のカードをひろげて、どちらを選ぶ?と問うのは間違いです。世の中のたいていの答えは、AのカードとBのカードの、混ざり合った間の場所にあるものだからです。

「ハーベイロードの前提」をご存じでしょうか? ハーベイロードとは、著名な経済学者ジョン・メイナード・ケインズが居住していたイギリスのケンブリッジにある通りの名です。ケインズの経済政策の考え方のベースには、「ハーベイロードの前提がある」とよく言われます。ハーベイロードはケンブリッジの中でも、知識階級が集まる特別な場所でした。

この場所にエリートたちが集い議論を進めて作り上げたのが、「不況時には政府が積極的に介入して失業を減らし、景気をよくしていく」という積極的財政政策に代表されるケインズ経済学です。大恐慌時にアメリカのニューディール政策を後押ししたことでも有名ですね。

ここではケインズの経済政策に触れませんが、彼の政策には1つ大きな問題があったと言われます。

政策の是非を議論するときに、エリートだけが集い、あまりにも理想主義的に人の行動を定義して、経済政策を練ったこと。また、人間は合理的に思考するものだという前提に立ちすぎていたため、実際は非合理なことも多い人間社会にフィットしないのではないか、ということ。

だから、そんなものは「ハーベイロードの前提」でしか成り立たない──つまりエリートが集まった社会でしか通用しない、ある種、机上の空論になっているのではないか。そんな批判をよく受けてきました。

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