アメリカ企業がESGや文化戦争に目覚めた理由 将来の従業員や顧客の支持を考えれば得策だ

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前述のとおりジョージア州以外でも、投票権法改正に向けて審議が活発化している。ニューヨーク大学ロースクールのブレナン司法センターによると、3月末時点で全米50のうち47の州議会で州民の投票権を制限する361件の法案が提出されているという。

ジョージア州に続き直近で対立のリスクが見込まれるのが、アリゾナ、テキサス、フロリダ、ミシガンなど、いずれも共和党が州議会で多数派を占め、大統領選における激戦州や南部の州だ。これらの州ではジョージア州で投票権を制限する法律の成立を許したことの反省を踏まえて、多数の企業が先手を打って投票権の制限に反対する姿勢を公の場で示している。ジョージア州ではロビイストが州議会に働きかけていたものの、法成立後まで公の場で抵抗を見せなかったデルタ航空やコカコーラなどの対応が非難を集めたからだ。

これら投票権を制限する州議会の動きに対抗し、民主党は多数派を占める連邦議会では逆に国民の投票権を拡大する選挙改革法案「人々のための法律(議案番号:下院案HR1、上院案S1)」の成立を狙っている。同法案は下院で可決済みだが、上院ではフィリバスター(議事妨害)の廃止や改定がないかぎり可決は難しく、廃案となる運命にある。そのため、当面は州政府で投票権を制限する法案をめぐる党派対立が注目を集め、企業は否応なく巻き込まれることが想定される。

アメリカ政治の第5の権力に浮上する産業界

翌日にその発言を事実上撤回したものの、4月6日に上院共和党トップのミッチ・マコネル上院院内総務は「アメリカ産業界への私の警告は、政治に介入するなということ」と語った。マコネル氏は企業から献金を受け取ることは拒まないが、企業が社会問題にまで口を出すのに抵抗感を抱いている本音を明かしたようだ。

アメリカ政治は立法、司法、行政の三権分立で構成され、第4の権力はチェック機能を果たしているメディアであると一般的に指摘されている。だが、第5の権力として産業界が新たに浮上している。文化戦争に自ら進んで参戦するか、あるいは参戦せざるをえない企業が今後続出するのは必至だ。

こうした中、これまで産業界を守ってきた共和党は、企業に対して税控除撤廃など報復措置をとる可能性がある。それでも、企業は過去のように傍観していれば従業員や顧客を失い、将来のビジネスに悪影響が出るリスクがある。南部や激戦州をはじめ共和党が議会の主導権を握る州の大都市には、日本の大手企業も多数拠点を置いている。企業の社会問題関与への期待が従業員そして消費者などから高まる中、今後、アメリカで活動する日本企業も文化戦争を傍観視することが許されず、難しい舵取りを迫られるのではないだろうか。

渡辺 亮司 米州住友商事会社ワシントン事務所 調査部長

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わたなべ りょうじ / Ryoji Watanabe

慶応義塾大学(総合政策学部)卒業。ハーバード大学ケネディ行政大学院(行政学修士)修了。同大学院卒業時にLucius N. Littauerフェロー賞受賞。松下電器産業(現パナソニック)CIS中近東アフリカ本部、日本貿易振興機構(JETRO)海外調査部、政治リスク調査会社ユーラシア・グループを経て、2013年より米州住友商事会社。2020年より同社ワシントン事務所調査部長。研究・専門分野はアメリカおよび中南米諸国の政治経済情勢、通商政策など。産業動向も調査。著書に『米国通商政策リスクと対米投資・貿易』(共著、文眞堂)。

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