今後、脱炭素を実現させる民間企業の投資や技術開発を後押しするための財政支出は、優先順位が高い政策になる。一方、ビジネス経験がない公的組織が主導する産業政策は既得権益を作り出す弊害があり、市場経済を通じた自由競争を阻害するリスクがある。
ここで既得権益を作りあげる行動をとりがちな官僚組織と民間企業の癒着をしっかり監視することは、政治家の重要な役割になる。環境を理由にした増税の動きはすでに始まっているが、官僚の提言を鵜呑みにするだけの不勉強な政治家の害悪は、これから顕わになるだろう。
また「脱炭素は経済成長率を高める起爆剤になる」との見方も聞かれる。民間企業の投資拡大や事業変革を促して、1990年代半ばから続いたデフレによって定着した、過度に保守的な大企業の行動が積極的に変わるきっかけになるかもしれない、と筆者はやや希望的な観測を持っている。もし、脱炭素を実現させる技術革新に日本企業が成功すれば、デフレによって国際競争力を失っていた日本企業の復活の象徴になりうる。
安定的な2%インフレ実現が必要なワケ
だが、先に述べたように、環境権益を生み出すだけの産業政策にとどまれば、脱炭素推進策は日本経済の衰退をもたらし、むしろ企業の競争力を低下させる。脱炭素を目指す政府や官僚の行動を、厳しい目で国民が監視する必要がある。
そして、脱炭素実現の前提として、マクロ政策を徹底して「安定的な2%インフレ」という経済環境を早急に実現することが、最も重要だと筆者は考えている。
仮に、安倍晋三前首相時代の「アベノミクス」が目指した脱デフレが頓挫して、デフレ期待が再び強まればどうなるか。名目経済のパイが拡大しない環境のなかでの、脱炭素推進は目標だけが高い「ムリゲー」(難易度が高すぎてクリアするのが無理なゲーム)でしかない。
そうなると、復活しかけている民間企業のアニマルスピリッツ(野心的な意欲)は再び萎縮し、企業の野心的な投資や技術革新を阻害して、デフレ経済の到来で1990年代以降常態化した民間企業が貯蓄超過を増やす行動が再び強まるだろう。そして、環境利権の恩恵を積極的に享受することが民間企業にとって極めて合理的な行動になる。
安定的な2%のインフレの実現を通じて総需要不足を克服して、3%以上の名目GDPを持続的に拡大させる。これが、今後民間企業の技術革新によって、将来の脱炭素を実現させる必要最低条件になると筆者は考えている。菅政権が本気で脱炭素を実現させたいならば、アベノミクスを徹底させ、それを進化させる必要がある。
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