慶大生が「性的同意」ハンドブックを作った理由 キャンパス内で起こっている性暴力を問題視

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「性教育に対しても後に裁判で不当とされるほどのバッシングが起こり、性教育やジェンダー平等教育が遅れた大きな要因になっている」と関口氏は指摘する。その結果、男性が優位であるべき、といった固定観念が定着し、性的同意どころではない状況になっている。

関口氏はさらに「若者の自己肯定感の低さも大きい。自分を大事にするための意思を示すことが難しく、相手の強制に負けてしまう」と付け加える。本来ならイニシアチブを取る側が圧力をかけず、相手が断りたかったら断れるような誘い方をするべきだと話す。「自分の意思が示せ、相手の言い分を聞ける。コミュニケーション力をつけることも大事だと思います」とも言う。

「『国際セクシュアリティ教育ガイダンス』は、包括的性教育をすると、初交年齢が遅延し、性交頻度が減少し、リスクの高い行為が減少する、ジェンダーに公平な規範や自己効力感が拡充するなど、さまざまな効果があるとデータから指摘しています。学校と家庭が共同で行うとより効果がありますが、訓練が不十分なスタッフによる実施や、教育期間が短いと低下する、とも書いてあります」と関口氏は話す。

「人間は本来、生涯性的な存在で、性的な満足を得ることは権利でもある。それは必ずしも妊娠に至る性器の挿入だけではなく、ハグも性的な語り合いも含まれます。もちろん、性行動にまったく興味を持たない人もいますし、そのことは尊重されるべきですが。セクシュアリティ教育は、健康とウェルビーイング(幸福)、尊厳を実現し、尊重された社会的・性的関係を育てることにつながるんです」

関西の学生も性的同意のハンドブックを作成

関西にも、大学生による任体「ジェネシス」と京都市男女共同参画推進協会が発行した『ウィングス京都 ジェンダーハンドブック』が、性的同意をテーマにしている。各地で学生たちが、性的同意が必要だと呼びかけていることは、頼もしい。しかし、それは本来学校や大人が行うべきではないか。そもそも大学で「性的同意って何?」ということから伝えないといけない現状が、問題なのである。

性的言動は、人生や人間関係をより豊かにする、当たり前の権利である。衝動的に欲求を満たすのではなく、喜びとお互いの幸せにつながるものであるべきだろう。抑圧や暴力として行うことは、トラウマや不本意な妊娠につながり、被害者の人生をゆがめてしまう。そうした悲劇を防ぐためにも、性的同意は必要不可欠なのである。

現在のフェミニズム・ムーブメントの大きな要因となった#Me Too運動が象徴するように、性に関する問題解決は、誰もが公平に扱われる社会を実現させる課題の根幹にかかわる。自分を大切にし、人を尊重するという当たり前のことができるのかどうか。性的同意問題は、この社会の認識を問いかけている。

阿古 真理 作家・生活史研究家

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あこ まり / Mari Aco

1968年兵庫県生まれ。神戸女学院大学文学部卒業。女性の生き方や家族、食、暮らしをテーマに、ルポを執筆。著書に『『平成・令和 食ブーム総ざらい』(集英社インターナショナル)』『日本外食全史』(亜紀書房)『料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた』(幻冬舎)など。

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