慶大生が「性的同意」ハンドブックを作った理由 キャンパス内で起こっている性暴力を問題視

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「学生たちは総体として無知です。学校で性教育の時間が少なく、きちんとした科学的知識を与えられていないからです。2017年に大規模中学校の性教育平均時間数を調べたのですが、3年間で8.62時間しかありませんでした。しかも、学習指導要領の『妊娠の経緯は取り扱わないものとする』という歯止め規定があります」と語るのは、立命館大学や京都教育大学で非常勤講師を務め、長年、セクシュアリティ教育・ジェンダー教育に携わる関口久志氏だ。

「多くの教員も知識不足です。小中高校でも学んでいないし、教員養成課程で性教育を受けたことがない。先生が知識不足だから教えられないし、子どもたちは学べないから親になっても教えられないんです」

男性がリードすべきという「刷り込み」

関口氏によると、世界的には、ユネスコなどが作成した『国際セクシュアリティ教育ガイダンス』という指針に沿って性教育を進めているが、日本は無視状態。「生命誕生のプロセスとしてのセックスも教えてはいけないなんて国は、先進国では日本だけなんです。ガイダンスは5歳からの性教育を提言し、小学校高学年から避妊方法を教えることをすすめています。あらかじめ知っておくことが教育の基本だからです」。

こうした中、日本ではAVを通してセックスを学ぶ人が多いため、男性の自己中心的なセックスや、男性がリードすべきという感覚を刷り込まれがちだ。このため、女性から性について話すことがはばかれたり、女性は受け身でいるほうが望ましい、といった誤った認識ができ、これが性的同意を取らない土壌になっていると関口氏は見る。

きちんとした性教育が行われてこなかったことは、さまざまな問題の要因にもなっている。「セックスはしていない前提に立っているから、アフターケアや支援がほとんどの学校にない。緊急避妊ピルも1万5000円~2万円と、ほとんどペナルティに近い高額に設定されている。外国では若い人には無償で提供する、病院に行かなくても薬局で安価に購入できるなど、ハードルは低くされています。

周りも不本意なセックスへの理解が低い。『そんなに待たせたら彼がかわいそうだよ、浮気するよ』『彼氏の部屋へ行ったら、セックスされるのは当たり前でしょ』など、女性同士でも、相手をあおったり傷つけてしまう場合があります。大人との間で性の話がタブーになっていれば、大人に相談もできず、問題が起こったときに抱え込んでしまいます」と関口氏は負の連鎖が起きている現状を解説する。

日本の性教育が世界の潮流から取り残されたのは、1990年代に進んだ第三波フェミニズム・ムーブメントのバックラッシュが2003年頃に起こったことが大きい。

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