「ゼロコロナ」志向こそが人と社会を壊していく 森田洋之医師に聞く。「ワクチン過信にも注意」

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――ワクチンこそ、「自身のリスク判断」に委ねられるべきだと思いますが、テレビや新聞は打つべきとの大宣伝です。新型コロナで脅しすぎて収拾がつかなくなったので、ワクチンで救われるというストーリーを喧伝しているのではないか、そんな気さえしています。森田さんは、ワクチンをどうみていますか。

基本的にはあまり期待していません。かなりの情報が出ていますが、それでも今の時点で効果が大きいとか安全だとかいうのは時期尚早だと思います。例えば、イギリスは5割近く、イスラエルは6割の人がワクチンを打ち、感染者が急減したと喜んでいますが、統計をよくみると、昨年の第1波でも感染が減るときは急減しています。つまり、ワクチンによるものなのか、単に新型コロナのエピカーブがそうなのか、判然としません。また、チリでは4割の人がワクチンを打ちましたが、感染者数は過去最高です。ワクチンが中国製だからという人がいますが、それが原因かはわからない。

それでも、アメリカやイスラエルやイギリスは感染状況と死亡率からいって賭けに出る価値があるでしょう。しかしコロナにかかる確率や死亡率が極端に低いに日本では賭けに出る必要がないと僕は考えています。遺伝子ワクチンのような新しい薬では何があるかはわからないです。理論的に安全だと専門家は言いますが、これほどあてにならないことはありません。医学的に安全と認められた薬があとで副反応が大きくて承認取り消しになったという事例はたくさんあります。

アナフィラキシーショック(アレルギーショック)などの目先の副反応ばかりが注目されていますが、怖いのは副反応がすぐに出るとは限らないことです。ワクチンではありませんが、サリドマイドの例などひどいものです。医学的に安全だということで薬事承認が通って多くの人が使って、4年後に奇形児が生まれるとわかった。因果関係はすぐにわからず、関連がわかるまでに4年かかり、その原因が理論的に解明されたのは30年後です。

「医療の過信」「ゼロコロナ幻想」は危険

専門家をそんなに信じてはいけないんです。医者も国民も医療を確かなもののように思いすぎていることがよくないと思います。医学って数学や物理学のように、確かな学問じゃない。人間の体は複雑でまだほんのわずかのことしかわかっていません。人の体に新しい薬を入れたらどういう反応が出るのかはわからない、というのが本当に正しい良心的な答えです。経済学の理論も現実の社会に落とし込んでみると、理論どおりにいかないことが多いですが、似たところがあります。

先程からお話ししているように、コロナだけをゼロにすべきという幻想が広まってしまったことに危機感を覚えます。私自身、医師として多くの死に向き合ってきました。残念ながら救えない命はあります。そして人は必ず死にます。一方で、リスクを恐れるあまり多くの高齢者を「かごの中の鳥」にすることで、かえって動けなくなったり、認知症が進んだりということが起きています。

コロナ禍をきっかけに、一般の国民の活動制限が始まりました。中国や韓国のようなスマホの位置情報で個人を監視するような動きを推奨している人々さえいます。私たちはかごの中へ追い込まれていいのでしょうか。

大崎 明子 東洋経済 編集委員

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おおさき あきこ / Akiko Osaki

早稲田大学政治経済学部卒。1985年東洋経済新報社入社。機械、精密機器業界などを担当後、関西支社でバブルのピークと崩壊に遇い不動産市場を取材。その後、『週刊東洋経済』編集部、『オール投資』編集部、証券・保険・銀行業界の担当を経て『金融ビジネス』編集長。一橋大学大学院国際企業戦略研究科(経営法務)修士。現在は、金融市場全般と地方銀行をウォッチする一方、マクロ経済を担当。

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