ウイルスを完全に排除しようというのは困難なだけでなく、実は、人間の体、人類の将来にとっても危険なことなんです。私たちは事実として細菌やウイルスと共存しながら日常生活を送っています。それによって、免疫を身につけてきたのです。例えば、肺炎の原因の第1位は肺炎球菌ですが、子どもの鼻や喉の中に常在菌として存在し、それが免疫機能の低下したお年寄りにうつると亡くなることもあります。つまり感染症とは病原体と免疫力のせめぎあいなのです。
菌やウイルスが体内に入って暴れ出したときに、体内の免疫機構で制御できるようにすることが、大事です。ゼロコロナを目指すより、被害を押さえながら共存して免疫機能を強くしていくほうがいい。しばしば誤解が見られますが、インフルエンザ薬のタミフルやリレンザも増殖を抑えるだけでウイルスを殺すわけではありません。ウイルスを殺してくれるのは自分の免疫だけです。
――では、何年も過剰な対策をしながら暮らすと、人間が弱くなる?
すでに免疫のある大人はそれでもいいかもしれませんが、今年生まれた子どもが何年もそうした状態に置かれたら怖いと思います。無菌室で育ったら、と想像してみてください。
後遺症も変異株も「コロナが特別」ではない
――昨年の夏頃から若年層向けには後遺症が怖い、後遺症を恐れよ、というのがキャンペーン的に流されました。
どんな病気でも後遺症は発生しうる。当然、風邪でもインフルエンザでもあります。人の体は複雑ですから、医学の世界では「一例報告」にこだわることはしません。全体像がつかめなくなるからです。ところが、テレビの報道はそういうのが大好きですね。後遺症のあるという患者さんにインタビューして大きく報道する。その人もその後は治っているかもしれませんが、その時には報道しません。
――変異株についても、さまざまな報道があります。
変異株についていえば、ウイルスはどんどん変異していきます。ウイルスというものの性質として自分が生き残る、広まるためには宿主が必要ですから、大きな傾向としては弱くなっていくという性質があります。もちろん、その過程ではどのようなウイルスになるのか、注意して見ていく必要がありますが、一つひとつの報道に振り回されるのではなく、本当の死亡率はどうなのかなど、統計全体を見て冷静に判断していくのが望ましいと思います。
そういう視点で見ていくと、今回の変異株についても、前回1月ころの変異株についても、超過死亡が大幅に増加するとか欧米のように死亡率が激増する、というような傾向は見られません。
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