「ゼロコロナ」志向こそが人と社会を壊していく 森田洋之医師に聞く。「ワクチン過信にも注意」

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――新型コロナでは子どもや若者は基本的に死なないので、教育や遊び、スポーツ、芸術などを犠牲にしている現状は間違いだと思います。ただ、そういうと、「お年寄りは死んでもいいのか」という反論が来る。

新型コロナで大騒ぎしていますが、日本では肺炎で年間10万人、月に1万人、毎日数百人死んでいるのです。今まで、その人たち全員に人工呼吸器を付けろという話にはならなかった。これは、お年寄りだから付けないという話ではないし、そんな議論をしてはいけません。もちろん、回復の可能性があれば人工呼吸器やECMOも使うでしょう。

新型コロナの統計を見ていると、おそらく、亡くなった方には認知症が進んで5年間寝たきり、老衰の過程をたどっていたという方も多い。新型コロナ死亡者の4割がもともと寝たきりの高齢者だったという報告もあります。(『コロナ死亡患者の4割が「元々寝たきり」の波紋』)。そのような場合に必要なのは、人工呼吸器ではありません。まず、患者さんがどうしたいのか、医師は腹を割って話し合って、その人の人生観に沿った対応をすべきなのです。過剰な医療で苦しむことなく静かに人生を閉じることを希望されているかもしれないのですから。

医療の目的は「身体的・精神的・社会的な健康」

今、ゼロコロナを目指す結果、高齢者は家族と面会できない状況です。しかし、終末期のおじいちゃんおばあちゃんにとって今、新型コロナにかかるかどうかはもうあまり関係がないかもしれない。それよりも、家族に会い、残された日々を少しでも笑顔で過ごしたいかもしれない。そういう希望があるならそれを実現するのが本当の医療です。ところが、現実は患者のための医療ではなくて医療側のための医療になっている。

私は大病院に勤務したあと、市財政の破綻で病院がなくなった夕張市で高齢者医療に携わりました。きちんと対話すると、札幌の大病院に入院するよりも、在宅医療を選んだ人が多く、そのほうが最後まで生き生きと暮らすことができたのです。高齢者医療の実体験を本に書いていますので、ぜひ読んでいただければと思います(『日本の医療の不都合な真実』、『うらやましい孤独死』)。

医療の目的は医師法第1条に書いてあります。「国民の健康な生活を確保する」と。では「健康な生活」とは何か。WHOの定義では、「身体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあること」です。しかし、今の医療は身体面しか見ていない。延命だけが目的になり、精神的・社会的な健康に興味のない医者が多い。だから管を抜かないように患者を拘束するような医療が当たり前になってしまっている。

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