現代文明はどのような「化石」を未来に残すのか? 人類が決定的に変化させてしまった地球環境

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ここにある化石の大半は、大昔の人類の足跡のように、生痕化石だ。何千個もの湾曲した管状のものは、絶滅して久しい生物が巣をつくったり餌を探したりして掘った小さな痕跡で、マカロニのように石灰岩の一帯に散らばっている。

数十個の浅い穴がポツポツと空いた広い一角もあり、スコットランドが赤道近くに位置していた石炭紀に、熱帯の森に生えていた個々の木の痕跡と考えられている。いくつかの穴は下盤粘土で埋まっている。化石化した湿地の土壌であり、そのなかには太古の植物の根の細かい痕跡がまだ見られる。

博物学者のアダム・ニコルソンが述べたように、北ヨーロッパは地質学的にはいまも回復中の景観であり、氷河作用の途方もない後遺症でまだよろめいている。

氷床が解けてなくなるにつれて、ブリテン諸島はアイソスタシー隆起と呼ばれるプロセスでゆっくりともち上がってきた。寝ている人の頭の重みから解放された枕が、元どおりの形に戻ってゆくようなものだ。

かつてはヒマラヤ山脈よりも高くそびえていたスコットランド高地にある山々がただの岩塊になるまで削られていったように、町も高速道路も石灰窯もセメント工場も歳月とともに風化し、事実上、何ら跡形もない状態にまでなるだろう。

だが、抹消される前に、それらは地球に消えることのない痕跡を残すことになるはずだ。セメント工場は、人類が生産したそれこそ崇高なほどの量のコンクリートと、生産にかかわったプロセスを思いださせる。

人類が動かしてきた大量の岩石

ヒトは何千年ものあいだ土を動かしてきた。今日までの人為的な地形改変の証拠をすべて積み上げたら、その結果は標高4000メートル、幅40キロ、全長100キロにおよぶ山脈になると考えられている。

そして、21世紀の終わりには、それまでの5000年間に人類が動かしたのと同量の石や堆積物を、たかだか150年にわたる建築物や道路の建設、採鉱などで動かすことになるだろう。

毎年、私たちは1883年に(インドネシアで起きた)クラカタウの大噴火の1万8000倍にも相当する岩石を動かしている。約5000億トンほどのコンクリートが、これまで人間が使用するために打たれてきており、これは地表全体に1平方メートル当たり1キログラム(約0・4ミリの厚さに)敷き詰めるのに充分な量なのである。その半分は過去20年間に生産された。

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