『彼女』が注目される理由には“Netflix映画”であることが影響しています。Netflixは2021年から毎週少なくとも1本の新作オリジナル映画を公開することを約束し、映画作品への投資を強化させている動きがあります。Netflix最大のライバルであるDisneyも直営の動画配信プラットフォームのDisney+で配信ファーストによる映画公開を進めています。コロナ禍をきっかけに世界全体の映画ビジネスに変革が起こったことで、日本の映画業界にNetflix映画がどのような変化をもたらしていくのかといった視点があり、『彼女』の製作背景に興味が持たれているのです。
日本特有の「キャスティングのハードル」
例えば、Netflixでなければ、成立しなかったキャスティングだったことが強調されています。Netflix公式のプロダクションノートで映画『彼女』の廣木隆一監督がこのように明かしています。
「原作がずっと映画化されなかった理由のひとつは、キャスティングが困難だったから。基本的には裸になるシーンがあるがゆえに、それに対応できる名の通った俳優さんが少ないんですね。だから今回、水原さんがレイ、さとうさんが七恵という配役ありきで進んだという感じです」
原作は女性2人の極限の愛憎を描く中村珍の『羣青』です。物議を巻き起こすほどの原作力に早くから目を付けたプロダクションは多かったと言われています。廣木監督も連載当時からこの漫画にひかれていた1人だったとのこと。1982年にピンク映画でデビューし、Netflixでは『火花』の総監督を務め、これまでありとあらゆる人間ドラマを手掛けてきた廣木監督も注目していた原作だったのです。
2017年夏にようやく映画化に向けての企画がスタートし、脚本制作、キャスティングが進行しつつも、作品の持つ力と公開規模の折り合いがつかず配給先にも難航したことがわかっています。最終的に企画そのものにポテンシャルを感じたNetflixが制作を決定したとのことです。そして、2020年夏に撮影が始まり、現在の公開に至っています。
つまり、キャスティングやマーケティングの考え方に制限がかかりやすいことが日本特有の事情としてあり、ハードルを突破させたその具体的な例が『彼女』なのです。水原希子とさとうほなみの息のあった体当たりの演技が実現したことそのものは最大限に評価できるものの、演出面で賛否両論が生まれてしまっているのは想定内でもあります。日本の映像製作現場はまだ、世界のスタンダードに向かう発展途上の段階にあるからです。伸びしろに期待を込めた議論も必要なものだと思います。
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