なぜ日本人投手は米国MLBでひじを壊すのか? 大谷翔平投手、藤川球児投手、和田 毅投手…

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一方、メジャー・リーグの固いマウンドで投げる場合、ステップ脚が接地すると、すぐに固定されてしまいます。そのため、投球方向に勢いがついている体が急激にストップして、つまずいたようになってしまいます。これにより、そのままひざを伸展させるような体の使い方をします。ひざが伸展方向に使われるため、重心は高いままに見えます。

日本人投手がメジャー・リーグの固いマウンドで投げると?

これらを考慮して、日本の多くの野球場のマウンドに慣れた投手がメジャー・リーグのマウンドで投げるとどうなるでしょうか?

メジャー・リーグのマウンドでは、日本の多くの野球場のマウンドのように、ステップ脚が接地した後もひざを屈曲させる動作ができなくなりますので、投手は「重心を移動しにくい」と感じるでしょう。そのため、上体をよりかぶせるようにして補おうとすると考えられます。つまり、日本の多くの野球場のマウンドで投げるときよりも上体を使って腕を振ろうとしますので、どうしても上体と腕に頼った投げ方になると予想できます。そのため、腕への負担が過度にかかり、ひじを痛める傾向があるのだと思います。

私たちが行った実験では、固いマウンドに慣れてくると、被験者である投手13名の球速の平均が時速3.4キロ向上しました(図1-1)。13人中11人で球速の向上が見られたのです。

図1-1 マウンドの違いによる球速

体の動きを見ると、体幹が前に倒れていく速度、すなわち体幹前方回旋速度は、固いマウンドのほうが大きくなる傾向がありました(図1-2)。これは図1-3のように足がズレずに固定されることで、体幹前方回旋速度が大きくなり、その分、投球する腕が残ります。これにより、いわゆる「腕のしなり」が大きくなることで、球速が速くなるのではないかと考えられます。

図1-2 体幹前方回旋速度
図1-3 クレイマウンド(固いマウンド)による投球速度向上のメカニズム

そのため、固いマウンドは球速の向上には適していると言えますが、固いマウンドにうまくアジャスト(適応)できないと、腕への負担が大きくなってひじを痛めてしまう可能性があります。

ただし、この点はさらなる研究が必要です。

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ほかにも「ボールの影響」や「投球頻度の影響」などが考えられますが、マウンドが固くなることで増える体の負担は非常に大きいと予想できます。なぜなら、メジャー・リーグで勝負する日本人選手には股関節を痛める例も多く見られ、下肢への負担も大きいからです。

ただ、最近では、日本のプロ野球が使う球場でもマウンドが固くなっています。しかし、だからといって問題が解決されるわけではありません。なぜなら、アマチュアが使う球場では、ほとんどが柔らかい土の内野であり、その柔らかい土を盛ったマウンドのままだからです。つまり、ジュニアの期間とプロに入ってからのマウンドが異なってしまうわけです。

これにより、投球メカニクスを変えなくてはなりません。この現状が投手を育成するときの問題点です。私は、プロ野球の球場とアマチュアが使う球場のマウンドを同じものにすることを提言したいと思います。

川村 卓 筑波大学体育系准教授、筑波大学硬式野球部監督

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かわむら たかし / Takashi Kawamura

1970年生まれ。全日本大学野球連盟監督会運営委員、首都大学野球連盟理事・評議員。市立札幌開成高校時代には主将・外野手として1988年、夏の甲子園大会(第70回)に出場。筑波大学時代も主将として活躍。筑波大学大学院修士課程を経た後、北海道の公立高校で4年半、監督を経験。2000年12月には筑波大学硬式野球部監督に就任。2006年、秋季首都大学野球リーグ優勝を果たす。主にスポーツ選手の動作解析の研究を行っている。

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