「寅さん」から「相棒」まで、長寿シリーズの条件  長く愛される映画やドラマは何が違うのか?

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さて、ここまで作品のなかの主人公、俳優、ストーリー、脚本などの点から長寿シリーズの条件についてみてきた。最後に、時代とのかかわりにもふれておこう。長寿作品になるには、時代の追い風も必要と思えるからだ。

『男はつらいよ』が長寿シリーズとなった背景には、昭和の高度経済成長期における人々の願望もあっただろう。当時の日本人は、敗戦後の復興という目標に向けて一丸となって働いた。その結果、奇跡とも呼ばれる経済成長を成し遂げ、生活も豊かになった。

だが勤勉に働くことは、多くの人にとって会社など組織の歯車になることでもあった。そこに生まれる自由への憧れが、気ままに生きる寅さんへの羨望につながったのではないだろうか。同じく高度経済成長期にヒットした映画「無責任シリーズ」で植木等が演じた無責任男の人気にも、似たところがあるだろう。

対して2000年代以降は…

それに対し、平成、とくに2000年代以降の世の中では、昭和のような社会の一体感は薄れ、格差の広がりが感じられるようになった。それは、個人の能力がより問われる社会である。そこには自由はあるが、同時に生きづらさが伴う。

『相棒』の杉下右京は、頭脳明晰で博覧強記。有能の極みのような人物だ。しかし、自らの正義を徹底的に貫こうとするため、組織のなかで出世はできない。本人はそんなことなどどこ吹く風に見えるが、生きるのが不器用な人間であることは間違いない。そこには、いまの私たちが抱える生きづらさに通じるものがあるように思える。その意味で杉下右京は、いまの時代ならではのヒーローだろう。

映画にせよテレビにせよ、長寿シリーズになるには、まず作品そのものの魅力が不可欠だ。だがそれだけでなく、時代の風を感じ取り、それを主人公や物語に反映させる嗅覚も必要であるに違いない。

太田 省一 社会学者、文筆家

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おおた しょういち / Shoichi Ota

東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得満期退学。テレビと戦後日本社会の関係が研究および著述のメインテーマ。現在は社会学およびメディア論の視点からテレビ番組の歴史、お笑い、アイドル、音楽番組、ドラマなどについて執筆活動を続ける。

著書に『刑事ドラマ名作講義』(星海社新書)、『「笑っていいとも!」とその時代』(集英社新書)、『攻めてるテレ東、愛されるテレ東』(東京大学出版会)、『水谷豊論』『平成テレビジョン・スタディーズ』(いずれも青土社)、『テレビ社会ニッポン』(せりか書房)、『中居正広という生き方』『木村拓哉という生き方』(いずれも青弓社)、『紅白歌合戦と日本人』(筑摩書房)など。

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