「企業がケチになった」から日本経済は衰退した デフレや消費税は「副次的な要因」にすぎない

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諸外国の企業の投資の主流がICTや社員教育に移行する一方で、日本はこの2つの分野に十分な投資を行っていないことが、海外とのギャップができている大きな理由の1つでしょう。

企業の投資を促進することが最大の課題

労働分配率の低下と企業投資の減少によって、世界的にインフレ率が低下しています。日本は、人口減少と高齢化というさらなるデフレ要因も加わって、デフレから抜け出せなくなっているのだと分析しています。

労働分配率低下と企業投資減少による経済への影響は、世界中の先進国で観測できるので、日本だけの現象ではありません。日本は海外に比べて、極端なだけです。

となると、日本政府が行っていた緊縮財政や消費税の引き上げは、経済に対して短期的な悪影響を及ぼしたのは確かですが、もともとあった問題を悪化させているだけの「副因」であって、経済低迷の主因ではないことになります。

日本で賃金が上がらないのは、労働分配率の低下と企業投資の減少に最大の原因があります。個人消費が増えないことこそ企業の緊縮戦略の原因だ、という反論が聞こえてきそうですが、そうではありません。実際、個人消費が増えているときでも、企業は労働分配率も投資も減らしています。

理屈上、唯一「日本経済が成長しない理由はデフレだから」という仮説が成立するには、企業が労働分配率を下げて、投資もしない、直接かつ最大の原因が「デフレだから」ということにならないといけません。

世界に視野を広げていけば、財政緊縮をしていない国でも、デフレになっていない国でも、この企業の緊縮戦略問題が起きています。その事実を考慮すれば、日本企業が緊縮戦略をとっている主因は、日本政府の緊縮財政でもデフレでもありません。となると、緊縮財政は経済低迷の主因でないので、緊縮財政を止めれば経済が本格的に回復する、とはかぎらないのです。

MMTの論者も、国の負債は民間の資産であると強調しますが、MMTに基づいて政府支出を増やしても、企業の投資需要を喚起することができず、企業部門が今のようにその稼ぎをすべて内部留保に回した場合、MMTによる負債増は企業の貯金(資産)になるだけで、持続的な内需喚起につながらない可能性が高いのです。その場合、大変な逆効果になります。ぜひ、和製MMT論者の皆さんには、PGS(生産的政府支出)の考え方を取り入れて、MMTに基づいて政府支出を増やした場合、どう企業投資を喚起させられるかを考えていただきたいと思います。

日本のこれからの経済政策を考えるにあたって、政府はなぜ企業が賃金の引き上げも投資もしないのかを真剣に考え、どうしたら企業の投資を促進できるのかに頭を使うべきです。これはMMTに基づく積極財政を実施するか否かにかかわらず、最も重要な問題なのです。

次回は引き続き、海外の経済学者によるしっかりとした統計分析を基に、「なぜ企業は投資しないのか、なぜ企業は労働分配率を下げているのか」を検証します。

デービッド・アトキンソン 小西美術工藝社社長

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David Atkinson

元ゴールドマン・サックスアナリスト。裏千家茶名「宗真」拝受。1965年イギリス生まれ。オックスフォード大学「日本学」専攻。1992年にゴールドマン・サックス入社。日本の不良債権の実態を暴くリポートを発表し注目を浴びる。1998年に同社managing director(取締役)、2006年にpartner(共同出資者)となるが、マネーゲームを達観するに至り、2007年に退社。1999年に裏千家入門、2006年茶名「宗真」を拝受。2009年、創立300年余りの国宝・重要文化財の補修を手がける小西美術工藝社入社、取締役就任。2010年代表取締役会長、2011年同会長兼社長に就任し、日本の伝統文化を守りつつ伝統文化財をめぐる行政や業界の改革への提言を続けている。

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