新政権は、発足翌日にはパンデミック対策の国家戦略も発表。その7本柱のうちの1つを、パンデミックなどの生物学的脅威をめぐる国際秩序の形成と外交戦略にさき、国際秩序の構築に向けた具体策を述べている。
例えば、世界で感染症危機管理オペレーションを調和させるための国際機関の創設(WHOは専門的・技術的な規範設定に強みが寄っていることが背景にあると思われる)や、国連システム全体で生物学的脅威への対抗策を統括するポストを設置、感染症危機予測や分析機関の設立、国家情報長官のもとで生物学的脅威に関するインテリジェンスを統括するポストの設置をうたっている。
日本はどうすべきか
ひるがえって日本も、自らの国益と国際公益の両方にかなう国際社会の戦後秩序を独自に構想し、積極的にアピールしていかなければならない。
感染症危機に関する戦後秩序の構想は、①世界秩序、②地域秩序、③志を同じくする諸国(Like-minded countries)--で構成する国際秩序の3つの階層で考えることが有用である。
日本にも世界規模の戦後秩序に関する戦略を練るほどの構想力があれば理想的だが、地域秩序の構想は最低限求められるだろう。例えば、日本を含むアジア各国が、国内の感染症危機管理に相対的に成功していることを踏まえ、感染症危機に関する先進的な地域機構を、いかにアジアに構築するかを構想することは、日本にしかできない、果たすべき重要な役割の1つである。
具体的には、現時点ではコミュニケーションチャネルとしての機能しかない日中韓三国保健大臣会合に実質的な政策調整機能を持たせ、3カ国関係を深化させることが考えられる。「ワクチン開発のカギ『病原体』を手に入れる裏側」でも紹介したように、東アジア地域で何らかの感染症危機が発生した場合には、日中韓三国保健大臣会合の枠組みの下にWHOを加えた形の合同調査ミッションを定例的に組成することも一案だ。
また、昨年11月に日本の支援で設立されたASEAN感染症対策センターを強化し、ヨーロッパの感染症危機管理オペレーションで中心的役割を果たす欧州疾病予防管理センター(ECDC)のように、東アジア全域の感染症危機管理をカバーする機構として整備していくことも考えられるだろう。
志を同じくする諸国との秩序形成については、まずは、G7+メキシコ+欧州委員会の保健当局者で構成する「世界健康安全保障イニシアティブ(GHSI)」という、感染症危機管理などに関する政府間会合を進化させることが考えられる。
GHSIは、アメリカの同時多発テロをうけ、アメリカ・カナダ政府の呼びかけにより、世界的な感染症危機管理の向上、およびテロリズムに対する各国の連携などについて話し合うことを目的に、保健担当の閣僚級会合として発足した。WHOもオブザーバーとして参加している。
GHSIネットワークは、平時からメンバー国間で政策協議や情報共有を行い、効果的なチャネルとして機能している。しかし、今後は、いかにGHSIメンバー国による一体的な外交活動の展開や、内政政策の発動に結びつけ、国際社会全体の政治的潮流を作り出せるかが課題だ。
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