コロナ危機後「世界秩序」気になる日本の存在感 秩序形成に加わるにはどうしたらいいのか

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さらに、昨年11月、ヨーロッパ諸国を代表するミシェル欧州理事会議長は、新型コロナ危機後の国際秩序形成の主導権を握るべく「国際パンデミック条約」を創設することを提唱。WHOのテドロス事務局長も、2021年1月のWHO執行理事会で、同条約の主旨に賛同を示した。

3月30日には、WHOや欧州理事会に加え、イギリスやドイツ、フランス、韓国など、合計28の国と国際機関の首脳が共同して同条約締結を世界に呼びかけ、国際政治における大きなうねりを形成しつつある。

今年3月には、欧州委員会がEU域内における各国間の安全かつ自由な渡航を円滑化させるための「デジタルグリーン証明書」の導入を提案した。これは、「ワクチン接種証明書」の一種であり、ワクチンの接種の有無や検査の陰性、あるいは、新型コロナからの回復歴を証明する。

タイや中国も動き出している

このほかにも昨年11月、タイとイタリアは、スイスのBSL4施設(危険な病原体を扱うことのができる研究施設)、およびWHOと連携し、危機管理医薬品の開発促進を視野に病原体などを保管するための「BioHub」というプロジェクトを発足させ、すでに南アフリカが新型コロナの変異株を提供している。

中国もパンデミック当初には「マスク外交」を実施し、最近は自国製のワクチン供給を通じた「ワクチン外交」を展開し、危機後の国際秩序に向けて影響力を拡大している。ロシアとインドも同様にワクチン外交を行っている。

アメリカでさえ、感染症危機に対する外交政策の手を矢継ぎ早に打っている。1月20日に発足したバイデン政権は、同日にWHOへの復帰に関する大統領令を発布し、翌日のWHO執行理事会で復帰を宣言した。また、2月19日のG7首脳会合では、新型コロナワクチンを世界各国に平等に融通する国際枠組み「COVAXファシリティ」に対して40億ドルの支援を表明している。

バイデン大統領が副大統領を務めたオバマ政権は、2014年に「グローバル・ヘルス・セキュリティ・アジェンダ(GHSA)」という感染症危機に関する国際枠組みを設立し、国際社会全体の体制強化を推進してきた。同政権で国家安全保障問題担当大統領補佐官を務めたスーザン・ライス氏は、かつて、「GHSA設立と気候変動に関するパリ協定締結は、オバマ政権のレガシーの双璧を成す」と語っていたのが印象的だ。

バイデン新政権発足後、オバマ政権でGHSAを構想したベス・キャメロン氏がアメリカ政府全体の感染症危機管理を統括する国家安全保障会議の部門長に復帰し、同じく同政権でエボラ出血熱アウトブレイクに対する人道支援オペレーションを主導したジェレミー・コニンダイク氏が、新型コロナ危機に関する途上国施策を統括するべくアメリカ国際開発庁(USAID)に復帰。人員面でも感染症危機に対する外交政策を充実させる布陣を整えている。

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