科学的に見て「送りバント」は有効な戦術なのか 1死を与える「もったいない戦法」?
この結論は高校野球だけでなく、プロ野球でも同様です。
2014~2018年のデータでは、無死1塁から1死2塁になることで、得点期待値は0.80から0.64に減少します。このことを考えても、送りバントは有効ではないと考えられます(蛭川晧平/著、岡田友輔/監修『セイバーメトリクス入門』より)。
しかし日本の野球では、依然として送りバントを使う傾向にあります。なぜでしょうか?次項では「送りバントの謎」をもう少し深掘りしてみたいと思います。
それでも使われるのは野球の「得点の仕方」にある
ここまでで、無死1塁での送りバントは有効ではないことを、得点期待値から明らかにしました。それでも、日本の野球ではいまだ送りバントが使われる傾向にあります。私も現役の筑波大学硬式野球部の監督ですが、送りバントはよく使います。
ここでは送りバントについてもう少し深掘りして、有用性について述べていきたいと思います。
まず、そもそも「野球の得点」について考えてみましょう。野球では、1イニングのうちに3死取られる前に、走者が1塁→2塁→3塁→本塁と踏むことによって「1点」が得られます。「そんなことわかっているよ」と言われそうですが、球技によってこの「得点の仕方」には特徴があります。
たとえば、サッカーやラグビーのように、ボールをゴールや陣地に運ぶことによって得点する「ゴール型」や、バレーボールやテニスのように相手とネットを挟んで対面し、相手コートにボールを打ち込むことによって得点となる「ネット型」があります。実は球技における得点の仕方は、大体この2つに分類されてしまいます。
ところが、野球は人が得点となる「ベースボール型」です。これは珍しい部類に入り、その特性をつかんで競技をする必要があります。野球の得点の仕方がベースボール型であることを、私はよく「すごろく」にたとえます。
すごろくは「ゴールにより近いところにいたほうが有利」です。1塁より2塁、2塁より3塁にいたほうが、次のサイコロの一投でゴールである本塁にたどり着く確率が高くなります。そのため、野球の監督は、「送りバントを用いて走者を進めておいたほうがよい」と考えるのです。
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