地下鉄延伸に黄信号「日本式インフラ輸出」の罠 ジャカルタMRT、第2期区間の入札不調が相次ぐ
コロナ禍の影響で本格着工は同年3月から7月にずれ込み、完成予定も2025年3月と遅れることになったが、現時点で進捗率は13%ほどと順調に進んでいる。この入札は2019年5月に実施され、ほかに大林組と国営建設ウィジャヤカルヤ・ジャヤコンストラクシの共同事業体、および三井住友建設と国営建設フタマカルヤの共同事業体が応札していた。ちなみに、フェーズ1の受注業者として名を連ねていた東急建設は、現時点での公開資料の中ではフェーズ2への入札は確認できない。
問題はCP202以降である。CP202およびCP203については2019年8月に入札公示、11月に締め切りというスケジュールだったが、どちらも不調に終わってしまった。MRTJの資料によると、モナス駅を建設する独立記念塔公園一帯の土地利用について各機関との調整が難航したことでCP201の入札公示が遅れた。後のCP202・CP203の入札公示との間にゆとりがなく、同時並行的に実施されたことで、業者の準備が間に合わなかったと結論付けている。
そこで2020年に再入札を実施したが、CP202はまた入札不調に終わった。加えてCP205に関しても応札者がなかったことを、MRTJのウィリアム・サバンダル社長は2020年10月に報道陣に明かし、危機感をあらわにした。なぜ1期工事で建設に加わった業者が入札に応じないのか、なぜ日本の業者にこだわらなければならないのかと、MRTJ内部のみならず、報道陣からも不満の声が漏れた。
しかし、「ジャカルタ都市鉄道南北線事業」の借款契約に対する調達条件が本邦技術活用案件、つまり円タイドである以上、指定比率の日本企業からの調達が求められることから、プロジェクトは一気に暗礁に乗り上げた。日本の成長戦略として掲げられていた「パッケージ型インフラ輸出」の落とし穴である。
車両だけでなく建設・土木も入札不調
「ヒモ付き案件」とも揶揄される日本タイド調達は世界的な批判を浴び、借款援助は1980年代以降、日本タイドから一般タイドへと変化せざるをえなくなった。そのため、円借款案件にもかかわらず外国企業が安値受注する例が増えてきた。鉄道で言えばバンコク地下鉄が最たる例であろう。土木部分こそ日本企業が受注したが、それ以外はすべてヨーロッパ勢に持っていかれてしまった。ある鉄道会社は受注を前提に、技術者の一団を現地に送り込んでいたさなかの出来事である。
これをきっかけに日本タイドの調達条件の必要性が議論されるようになり、そこで生まれたのが本邦技術活用案件という枠組みで、「パッケージ型インフラ輸出」の土台になっているものである。「我が国の優れた技術やノウハウを活用し、開発途上国への技術移転を通じて我が国の『顔が見える援助』を促進するため」と紹介されており、2002年から導入された。
要するに日本企業の参入障壁を下げ、そしてもっと海外に日本の技術を輸出しましょうと呼びかけているわけであるが、どうもうまくいっていない。既報の通り、マニラ、そしてミャンマーで入札不調の問題が発生している。ただ、これらは鉄道車両に関しての入札不調であり、建設・土木関係の入札が流れるのは前代未聞ではないか。道路や港湾、ダムなどを含むインフラのODA支援は、国内で減少する公共工事の埋め合わせという意味合いもある。だから、日本側としては、当然建設業者は入札に応じると考えていたはずである。それだけにこの衝撃は大きい。
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