地下鉄延伸に黄信号「日本式インフラ輸出」の罠 ジャカルタMRT、第2期区間の入札不調が相次ぐ
では、どうして今回、2度も入札が流れたのか。
まず、日本国内の建設需要は、直近の10年間はほぼ横ばい、ないしは微増傾向にある。つまり、リスクを冒してまで利潤の少ない円借款案件に手を出したくないという業界内のムードがある。これまで鉄道車両メーカーが率先して応札しなかったのと同じ理由である。
次に、そのリスクとはなにか。ここにフェーズ2Aの複雑な事情がある。MRTJ南北線のフェーズ1、つまり南側は地理・地形学的に「山の手」と呼ばれる区間であるのに対し、北側のフェーズ2Aは「下町」と言うべき区間である。とくに今回入札不調に終わったモナス以北のCP202・CP203区間は海抜が極めて低く地盤が軟弱で、道路中央部には古い運河が流れている。最近こそ減少したが、終点のコタ地区は雨季の豪雨と高潮が重なったときなど、しばしば洪水に見舞われていた。そのため、フェーズ1の地下区間よりもコスト増になることは明らかであり、企業はその区間の安値受注を回避した格好だ。
薄い「日本」の存在感
もちろん、安値受注は円借款案件である以上は織り込み済みである。それでも企業は入札する。というのも、すでに海外で事業所を構え、営業している建設業界にとって、公共インフラ整備への貢献は一種の広告になる。さらに活かされた高度な技術を、次の受注に繋げたいという思惑がある。
しかし、現状のインドネシアにはそれがない。2019年の開業式典では日本大使の出番はなく、ジョコウィ大統領は「日本」というワードを一切出さず、引き続きの協力要請をしなかったことがジワジワと響いてきているのである。日本が好きで、大学で日本語を勉強している学生ですら、MRTは韓国製、中国製と勘違いしている人も散見されるほどである。それがジャカルタ首都圏外ともなれば、「日本の高品質な技術で作られた地下鉄」というイメージはほぼないと言ってよい(国産だと思っている人も多い)。
実際に、現政権は今後の公共インフラ整備について自国技術の採用を基本とし、資金調達は返済義務の生じないPPP方式を前提としている。南北線に続く東西線事業では、事前調査および設計コンサルの部分までは円借款で進められているものの、本体工事については白紙の状態である。とくに東西線事業は数年前に国家開発計画から外されており、今後はジャカルタ特別州が主体となってプロジェクトを進めることになる。
こうなると、予算面から全額円借款で賄うことは難しく、民間からの資金調達も併せて検討されているほか、アジアインフラ投資銀行が融資に協力姿勢を見せている。MRTJのある幹部は、南北線フェーズ2でこのような入札不調が続くようでは、東西線事業のスムーズな着工のためには他国との協力も視野に入れて検討せざるをえないと発言している。中国(アジアインフラ開発銀行)のほか、ドイツ、韓国も関心を示しているという。
そんな中、MRTJは今年1月に突如として「フェーズ4」と呼ばれる南北線のファットマワティからタマンミニ方面に分岐する約12kmの延伸計画を発表した。JICAの事前調査にも含まれない区間であり、MRTJないしはジャカルタ特別州が単独で建設する区間になる。
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