地下鉄延伸に黄信号「日本式インフラ輸出」の罠 ジャカルタMRT、第2期区間の入札不調が相次ぐ

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これは非常に重要な問題をはらんでいる。2019年の開業用に16本の車両を用意したが、これはあくまでもフェーズ1区間の必要最低限の本数である。しかし、現在のルバックブルス車両基地はフェーズ1の16本分の留置能力(本来の設計上は14本)しかなく、拡張する余裕もない。

ルバックブルス車両基地。本来の留置能力は14本分だが、検修用ピット線2本を活用すれば最大16本収容できる(筆者撮影)

つまり、フェーズ2Bが完成しない限り抜本的な車両増備はできず、朝ラッシュ時の5分毎運行も間引かねばならない可能性がある。ウィリアム社長は直近の会見でフェーズ2用にはA区間で6本、B区間で8本の増備が必要と述べていることから、車両を駅で夜間滞泊させるなどの工夫でなんとかやりくりするようだが、コストアップにしかならない少数の車両増備に応じるメーカーなど、当然いるはずがない。

2019~2020年に実施した市場調査では、日本の鉄道メーカーで関心を持つ企業は1つもなく、仮に14本の一括発注にしても応札者が出ない可能性が高いとウィリアム社長は同時に述べている。フェーズ1で導入実績のある住友商事・日本車輛製造のコンソーシアムですら、「増備車」としての追加受注に否定的なのだ。

筆者はこれまで、JICAの日本・インドネシア間や各受注業者間をまとめる調整能力の欠如、そして杜撰な計画設計をたびたび指摘してきた。フェーズ1を見る限り、オールジャパンを謳いながら日本の各業者は一枚岩ではなかった。それでも工期通りに、いや、より早く開業できたのは、最先端で陣頭指揮を執っている人たちがそれらを被ってきたからである。実際、現場からはさまざまな不満の声が聞かれた。

岐路に立つ「パッケージ型インフラ輸出」

筆者は「ジャカルタ地下鉄開業、薄い『日本』の存在感」にて「まもなく、MRTJ南北線第2期事業についての入札が始まる。そこに出る顔ぶれから、今回開業した第1期事業に対する企業の評価が見えてくることになるだろう。わが国の『パッケージ型鉄道インフラ輸出』に対し、企業はどのようなジャッジを下すのか」と記した。信号・通信関係のように、前回の受注がほぼ自動的にフェーズ2でも約束されているというケース(CP205)ですら応札者が出なかったという状況を見れば、その答えは一目瞭然だろう。

軟弱地盤や国鉄遊休地の土地問題などは誰にでも予見できる程度の話である。しかも、現在の中心業務地区から外れ、旧市街と化しているハルモニ―コタ間の需要は極めて少ない。MRTJの地下区間と地上のBRT1号線の区間は完全に重複しており、わざわざ地下鉄を掘るほどのものでもない。行楽客のいない平日は空気輸送になるだろう。

工事が進むタムリン駅付近。将来的には当駅で東西線が交わる(筆者撮影)

ならば、将来的に東西線と連絡するタムリン駅を介してモナス駅までの建設で十分だったのではないか。ジャカルタの目抜き通りに地下鉄を通すという結論ばかりが先行して、詳細が煮詰まっていないのではないか。いまさら後の祭りであるが、モナス―コタ間の予算は東西線に回し、短距離でも日本規格のレールをまず引いておいたなら、よほど日本企業の将来に繋がったはずである。

同じくJICAが2016年から事前調査を進める国鉄(KAI)北本線高速化に対し、インドネシアの閣僚からまたも中国への要請を示唆する発言が出て、誠意を問う声が上がっている。しかし、これは5年待っても一向に方向性が定まらない日本案へのいら立ちと言える。これもまた、結論ありきで案件を引き受けたツケである。日本のパッケージ型インフラ輸出は今、岐路に立たされている。

高木 聡 アジアン鉄道ライター

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たかぎ さとし / Satoshi Takagi

立教大学観光学部卒。JR線全線完乗後、活動の起点を東南アジアに移す。インドネシア在住。鉄道誌『鉄道ファン』での記事執筆、「ジャカルタの205系」「ジャカルタの東京地下鉄関連の車両」など。JABODETABEK COMMUTERS NEWS管理人。

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