――それでも、官邸や厚労省は「とにかく検疫を」と指示してきたんですよね。
近藤:熱が出て「具合が悪い」という人がたくさんいるし、薬がなくなると不安を訴えている人も多い。その中で、陽性患者をみつけるためにPCR検査をして隔離して……なんてことを言っている時間はないんです。そんなのは現場の医療者の常識。
だから、陽性患者をただ掘り起こして見つけ出すというのはプライオリティが低いです、ということを、現地対策本部の中ではっきり主張する必要があった。つまり、検疫のオペレーションを続けているとこの現場は解決できない。船内で亡くなる人が出てくる。そう考えてDMATが主導権を取ることにしたんです。
搬送の優先順位を決めるカテゴリーを作った
阿南:私は県庁で患者を病院に運ぶ搬送活動を仕切っていたから、考えて、搬送の優先順位を決めるカテゴリーをつくった。「熱とか咳が出て具合の悪い人」「重症化しやすい高齢者ら」を優先し、「陽性でも症状がなくて元気な人」はあとに、と。
そうしたら、近藤次長は船内で下船のためのカテゴリーをつくっていた。それが、まったく同じだった。
近藤:何の打ち合わせもしていないのに、船の内と外で対処方針がピタっと一致していた。考えることは一緒。だからよく言われることだけど、離れたところ、DPの場合でいえば官邸とかにいて判断してはいけないってことですよ。現場に任せる。そして現場にいる人間は、自分で責任を持って判断し行動することが大事なんだと思う。
――その患者搬送ですが、困難を極めたそうですね。
阿南:県内にあった感染症に対応する病床はわずか74床です。それなのに、陽性患者は1日40人とか60人とか出るわけです。最高の99人が判明した日には、絶望的な気持ちになりました。
2020年2月といえば、国内のコロナ陽性判明者の総数が1日20人くらいの時期です。同情はしてくれても、快くコロナ陽性の患者を受け入れてくれる病院はどこにもない。そこを何とか、と言って頼み込む日々。必死でした。
そんな中で、藤田医科大学岡崎医療センター(開院前)と自衛隊中央病院が、100人を超す患者を受け入れてくれて本当に助かりました。
愛知県の藤田には、無症状者らを長距離バスで、それから東京・世田谷の自衛隊中央病院には有症状患者を受け入れてもらいました。
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