漫画「進撃の巨人」完結で知る担当編集者の秘話 新人の漫画家と編集者が二人三脚で歩んだ軌跡
『進撃の巨人』は、今までにない残酷な世界観と絶望的なシチュエーション、予測不能で衝撃的な展開の数々が魅力だ。物語の冒頭からいくつもちりばめられている謎や伏線は真実を知った後に読むと、最初に読んだときには気づかなかったキャラクターの微妙な表情や目線、行動など驚きの発見が多い。
そんな緻密に計算し尽された独特の漫画を通じて、描きたかったメッセージとは何だろうか。
「諫山さんがとあるインタビューを受けて話していたのは、思春期のときに体験した漫画、ゲーム、小説、映画を見ていてショックを覚え心をえぐられた感覚、それと同じ感覚を、今度は作り手になって受け手に味わわせたいという気持ちが創作活動の原点にある、と。たしかにそれが、『進撃の巨人』の初期にはありました」
ガムシャラな時期に手にした財産
『進撃の巨人』は連載開始後2010年12月(第3巻発売時)の時点で、既刊2巻の累計発行部数が100万部を突破していた。ただ、新人編集者だった川窪にとって『進撃の巨人』は初の担当連載作。「どう宣伝したらいいんだろう、どのくらい先のことまで考えたらいいのか?」と、初めて直面する出来事にガムシャラに対応するだけだった。
この頃の日々を回想しながら、担当編集者として得た、一番の財産を次のように語る。
「『進撃の巨人』をやってよかったなと思うのは、右も左もわからない若い頃に一人の力でできることは限られていて、みんなの力を借りると想像以上に前進することがいっぱいあるということを実感できたことです。
例えば宣伝にしても、自分一人のアイデアだと限りがあります。社外の方のアイデアを借りたらもっと面白いものが出てきたり、自分のやりたいことを形にしてくれる人がどこかにいたり。人の力を借りると物事が進むことがわかって、どうやったら人の力をスムーズに借りられるのかを考え、まずは自分が人の力になることから始めてみよう、というところに行き着きました」
『進撃の巨人』は、「このマンガがすごい! 2011オトコ編」(宝島社)にて堂々の1位を獲得したことが話題になりメディアでも取り上げられ、2013年に最初のアニメが放送されると、瞬く間に社会現象を巻き起こす大人気作品となった。
この頃から川窪の元には毎日、企業などから百数十件ものメールが届くようになった。問い合わせのメール数は2021年の現在も変わらず、途切れることがないという。だが、このすべてのメールを読み、返信する生活を続けてきた。「人の力を借りる」ことの大切さを知っているからだ。
「この企画提案は『進撃』らしくないのでNGです、など1つ1つ確認し返信します。デザインや映像の確認などのなかには、20分くらいの動画映像を見て返さないといけないものもありしんどいですけど。自分のルールとして、しっかり返すってことを決めていて、心に余裕があれば気の利いた一言を添えます。
例えば、『進撃の巨人』のタイ語版のデザインをチェックしてくださいというメールには、トムヤムクンの袋麺を連想して食欲がそそられました、と返したり(笑)。そういった1つ1つの細かいやりとりで、みんなにチームなんだって感じてもらえたらなと思っています」
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