顧客がハマる「熱狂のブランド」を生み出す秘訣 「カルトブランド」という新時代の手法

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では、どうすべきか。答えは「行動」である。行動によって理念や思想を伝えるのだ。リーダーは背中で語るとよく言うが、理念や思想を行動で表しているのである。

ブランド自身が、ブランドを象徴する音楽や人物を設定することも、ある種の行動である。信者らは、ブランドが示す行動をまねるようになる。それにより、ブランドの文化がより強固なものとなり、ブランドの信者もさらに増えていく。

宗教には聖地が存在する。同様に、カルトブランドにも聖地が存在することが多い。

わかりやすい例は、創業の地や創業のきっかけとなった場所である。スポーツ球団であれば本拠地が該当するであろう。アニメやドラマに登場した場所がファンらによって聖地化されることもある。これらを鑑みると、どのブランドにも聖地とできる場所はあるはずだ。あとは、それをうまくカルトブランディングに活用できるかどうかが問題となる。

聖地は、信者の信仰心を高める効果が期待できる。また、聖地を巡礼したことを、信者らはさまざまな場所で周囲に伝える。これはブランドと自らの関わりを示すという、カルトブランドの信者の特徴でもある。

アメリカのスタートアップは、なぜか自宅ガレージで誕生することが多い(創業のストーリーとしてよく耳にする)。こうしたガレージは、公開されていないとしても、ブランドの信者にとっては聖地といえよう。

カルトブランドにおいて、ブランド側、ブランドが立地する地域側、信者らによるコミュニティーの3つが聖地化プロセスの発端となりうる。

ただし、ブランドが支持を集める前に聖地が誕生することは考えにくい。まずはカルトブランドとしての地位を築き、その先に聖地化が待っていると考えるべきであろう。

「ライフスタイル」を明確に設定する

ほとんどすべてのカルトブランドは、ライフスタイルを売っている。北米アイスホッケーNHLの「ベガス・ゴールデンナイツ」がいい例だ。

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通常、プロスポーツクラブは、レプリカユニフォームやリストバンドといった応援の際に身に着けるグッズを開発し、販売する。しかし、ゴールデンナイツは、なんと風呂上がりに身に着けるバスローブを開発した。そればかりか、ワイン、シャンパン、バーボンまでオリジナル商品として販売している。これは顧客(=ファン)のライフスタイルを細かく、正確に設定した産物といえる。つまり、「ゴールデンナイツのある生活」を提案しているのだ。

ブランドのプロモーションビデオには、都市部に住む、朝が弱いクリエーティブ系と思われる人物が登場する。眠そうな顔をしながらコーヒーを飲むと、一気に目が覚めるというストーリーである。ライフスタイルに強く寄せた構成といえる。

ライフスタイルに寄せることで、ブランドに触れる機会が増える。ブランドに思いをはせる時間が増えれば、エンゲージメントは高まる。ライフスタイルに寄せた訴求は、カルトブランディングにおいて必須なのだ。

カルトブランディングにおいては、ほかにも「リーダーシップ」「愛」「コミュニティー」「緊張感」「体験」などのキーワードがある。これらのキーワードを念頭にブランディングに取り組むことで、ビジネスは成功へと近づくであろう。

田中 森士 株式会社クマベイス代表取締役CEO、コンテンツマーケティングコンサルタント、ライター

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たなか しんじ / Shinji Tanaka

1985年熊本市生まれ。熊本市在住。熊本大学大学院で消費者行動を研究後、熊本県立水俣高校の常勤講師(地理・歴史)、産経新聞の記者を経て、2015年にコンテンツマーケティングのエージェンシー・株式会社クマベイスを創業した。セミナーやワークショップ、講演活動にも積極的に取り組む。Forbes JAPAN Web版、日経クロストレンド、Yahoo! ニュース個人などで執筆中。

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