28歳男性が東京で「ホームレス」に転落したワケ 寮付き派遣、個人事業主、悪質無低の「負の連鎖」

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レイジさんは緊急アクションの担当者とともにあらためて生活保護を申請。担当者が同行したことで、今度は無低ではなく、東京都が一時入居施設として用意したビジネスホテルに入ることができた。

家族の機能不全に寮付き派遣、名ばかり個人事業主、日雇い派遣、無低――。レイジさんはおよそすべての社会の理不尽を経験してきたようにもみえる。ただレイジさん自身はそこまで強い憤りは抱いていないようにもみえた。とくに派遣という働かされ方については「高卒という条件を考えると仕方ないのかなと思います。日雇い派遣って違法なんですか? 知りませんでした。でも、そのおかげで食いつなぐことができたわけですし……」と話す。

「1カ月くらい長期で働きたい」

それよりも、とレイジさんは言う。「ずるずると生活保護のお世話になるのは申し訳ない。とにかく1日も早く働きたいんです。雇用形態はともかく今度は長期で働けるところを探します」。

レイジさんが支援団体に送ったSOSメールの一部。食費を削りながら、必死に仕事を探した様子がうかがえる(筆者撮影)

長期ってどれくらいですか?と私が尋ねると、レイジさんは「1カ月くらい」と答えた。愕然とした。1カ月は長期とは言わないだろう。しかし、派遣労働をしながら資格を取り、名ばかり店長として働きづめに働いてきたレイジさんにこれ以上、何を言えというのか。

細切れ雇用が当たり前だと思い込ませ、安易な雇い止めで路上に放り出し、生活保護を利用すれば悪質無低にぶち込む。そんな劣悪施設を1日も早く出ようと思ったら、寮付き派遣や日雇い派遣でも働くしかない。でも、不安定雇用だからいつ路上生活に戻ることになるかわからない――。20代の若者にそんな繰り返しを強いて、国や行政は本当にこのままでいいと思っているのだろうか。

新型コロナ災害緊急アクションの担当者と会った日、レイジさんは小口の支援金を受け取り、コンビニでおにぎり3つとサンドイッチ2つを買った。数日後あらためて私と会ったレイジさんが教えてくれた。

「ツナのおにぎり1つしか食べられなかったんですよ。おなかはすごくすいているはずなのに、胸のあたりが苦しくて」

何日も固形物を食べていなかったので、体がのみ込み方を忘れてしまっていたようだと、レイジさんは言うのだ。まぎれもない現代日本を生きる若者の現実である。

本連載「ボクらは『貧困強制社会』を生きている」では生活苦でお悩みの男性の方からの情報・相談をお待ちしております(詳細は個別に取材させていただきます)。こちらのフォームにご記入ください。
藤田 和恵 ジャーナリスト

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ふじた かずえ / Kazue Fujita

1970年、東京生まれ。北海道新聞社会部記者を経て2006年よりフリーに。事件、労働、福祉問題を中心に取材活動を行う。著書に『民営化という名の労働破壊』(大月書店)、『ルポ 労働格差とポピュリズム 大阪で起きていること』(岩波ブックレット)ほか。

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