ところが、この施設の住環境がとんでもなく劣悪だった。もともとは1部屋だったものをベニヤ板で仕切っただけの3畳ほどの居室。食事も貧弱。エアコンがないので、毎年夏になると何人かは熱中症で倒れるらしい。さらに毎月の生活保護費10万8000円から、居室費、食費と称して8万4000円をぼったくられた。レイジさんは後になって、この施設が悪質な無料低額宿泊所(無低)であることを知った。
今回のコロナ禍では、住まいを失った生活保護申請者が強制的に悪質な無低に入居させられるケースが、あらためて社会問題となっている。レイジさんは自ら無低に連絡を取ったとはいえ、当事者が貧困ビジネスの食い物にされるのを自治体が黙認するという点で、問題の構図に大差はない。
レイジさんはこの間、10万円の特別定額給付金を受け取るために自治体に何回か問い合わせをした。家族とは音信不通であることも併せて伝えたが、そのたびに担当者は「世帯分離をしないと申請書は送れない」「まずは親御さんと連絡を取って」とけんもほろろの対応。結局10万円を受け取ることはできなかったという。
「無低では自立や就労に向けた支援は一切ありませんでした。高齢者や健康状態の悪い人の中には15年以上、入居している人もいました。ケースワーカーは面談に来ないので、こうした無低の実態は知らないのではないでしょうか」
日雇い派遣で食いつなぐ日々に逆戻り
ここは長くいるところじゃない――。無低入居から数カ月、焦ったレイジさんは再び寮付き派遣に飛びついた。自ら生活保護を廃止し、無低を退去。しかしコロナ禍による影響は依然として大きく、約束していた仕事は派遣会社によってあっけなく反故にされた。レイジさんは再びホームレス状態となり、日雇い派遣で食いつなぐ日々に逆戻りしてしまう。
東京に行けば仕事があるのではと、藤沢や戸塚、横浜といった街に着くたびにフリーWi-Fiを使って日雇い派遣の仕事を探しながら東京に向かってひたすら歩いた。パチンコ店の前を通るたび、店内で無料で配っている飴を食べて空腹を紛らわせたという。
「まさか自分がホームレスや生活保護になるとは思っていなかったので、人目がすごく気になりました。昼間、ベンチでうとうとしていたときに衣類が入った鞄も盗まれてしまって……。知ってました? 今公園のベンチって、(座る部分に)手すりやでっぱりがあって横たわることができない作りになっているんです。あれってホームレス対策ですよね。そんなことも自分が路上生活になって初めて知りました」
このままではろくに眠ることもできず、飢え死にしてしまう。でも、生活保護を申請したらまた無低に入れられてしまうのではないか――。迷った末、レイジさんはネットで見つけた新型コロナ災害緊急アクションのメールフォームから助けを求めた。冒頭部分で紹介したメールである。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら