そのハラル、大丈夫?マーク発行団体が乱立 一歩間違えば国際問題に発展しかねない

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だがある認定団体は、そうしたしょうゆでも、「アルコール分が最終的に1%未満なら問題ない」と言い放つ。日本国内では厳格なハラルを担保するのは困難だし、おもてなしの心があるので大丈夫と、独自に提唱する基準を“ローカルハラル”と呼び、認定を与えているのだ。

ローカルハラルには、イスラム国家指定の認定機関に比べ、格段に認定を取りやすいものも多い。カネさえ払えば取得でき、後々の厄介な定期検証もない、といういいかげんな認定もある。しかし、ローカルである以上、イスラム圏への輸出はできない。一方、良識あるハラル認証団体は、完璧なハラル環境を作ることが不可能だと知っているため、国内の飲食店向けの認定マーク発行には非常に慎重だ。

そもそもハラルは宗教上の取り決めだ。宗教法人日本ムスリム協会の遠藤利夫理事は「宗教の戒律を考えれば、ダブルスタンダード、例外はありえない」と、ローカルハラルという考えが広まっていることに懸念を示す。

ハラルをうたいながらハラムを提供されることは、世界一宗教に無頓着といわれる日本人の想像以上に、ムスリムにとって大変な凶事に当たる。

豚肉やアルコール、アルコール添加のしょうゆを摂取したからといって、健康上の被害やアレルギーが出るわけではない。が、それらは作為、不作為にかかわらず、ムスリムを貶めるだけでなく、宗教をも侮辱することになる。「放置すれば宗教問題として、国際的な紛争になりかねない」と、日本ムスリム協会の徳増公明会長も憂慮する。

役所は及び腰

消費者庁や農林水産省は、所管が違うとして、ハラル問題には及び腰。「問題になりそうという認識はしている。上にも提言しているが…」と、農水省の若手官僚は悔しさをにじませつつ言葉を濁す。日本は政教分離が原則。対策を打つにも限界がある。

ただでさえ日本では、ハラル関連の情報が独り歩きし、誤解の連鎖を生みかねない危険な状態にある。ハラルマークを錦の御旗のごとく掲げることは、優良誤認を招きかねない。

ハラル対応は日本の活性化に必要なことではあるが、ビジネス面ばかりが強調され、大切なことを取りこぼしていないか。また、いきなり数百万円をかけてハラルマークを取得することが、国内の市場開拓に本当につながるのか。いま必要なのはハラルマークより、ムスリムに対する理解と正しい情報提供だ。

「週刊東洋経済」2014年7月12日号<7月7日発売>掲載の「核心リポート03」に加筆)

筑紫 祐二 東洋経済 記者

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ちくし ゆうじ / Yuji Chikushi

住宅建設、セメント、ノンバンクなどを担当。「そのハラル大丈夫?」(週刊東洋経済eビジネス新書No.92)を執筆。

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