それにしても、今回、購入対象を少々見直しただけでこれだけの影響が出るのだから、「ETFの購入を止めた場合」さらには「ETFの何らかの削減方針を発表した場合」の株価への影響の大きさは計り知れないものがある。
日経平均で数千円単位、場合によっては1万円クラスのインパクトがあるかもしれない。ETF買いをいつかは止めねばならないはずだが、はたしてその時の日銀総裁にその勇気があるだろうか。政治の世界では『週刊文春』のスクープである通称「文春砲」の威力が凄まじいが、株式市場における日銀には「日銀砲」と呼びたくなるような存在感がある。
現在の日本の株式市場の参加者の間では、「株価が急落したら日銀が買ってくれるだろう」とのいわゆる「日銀プット」とでも呼ぶべき期待があるが、これを維持するためには、日銀は折に触れてETFを買わざるをえない。すると、また日銀の保有株式が拡大する。しかも、ETFには、国債と違って満期がないので、じっとしていても満期が来て償還されて保有が減ることを期待できない。
現在は「出口を議論することが不適切だ」とされていて、日銀のETF保有の出口政策について方針が示されることも、議論されることもないが、一体どうするつもりなのかは興味深い。
利害関係者の日銀審議委員起用は正気の沙汰ではない
加えて、日銀は、ETFに関して、もう一つ厄介な問題を抱えようとしている。それは、金融政策家決定会合に参加する日銀審議委員に野村アセットマネジメント社社長の中川順子氏を起用しようとしていることだ。
運用業界から審議委員が起用されることは好ましいし、中川氏の個人的な資質を問題にしたいわけではない。唯一の問題は、野村アセットマネジメント社がわが国のETF運用の最大手であり、日銀のETF保有からどう少なく見積もっても年間100億円以上の収益を得ている「利害の近すぎる会社」であることだ。
この会社の社長を、ETF購入の増減や取り扱い方法を含む金融政策決定会合のメンバーとすることは、まったくもって不適切であり、「正気の人事案」とは思えない。筆者が国会議員なら、この人事案には断固反対する。
ついでに指摘しておくと、日銀がETFの信託報酬として運用会社に支払っている手数料は、市場では「日銀補助金」などと呼ばれているが、保有が巨額であるにもかかわらず、GPIFなどと比較して高すぎる。本来、手数料の引き下げ交渉を行ってしかるべきなのだが、こうした交渉を行う場合、その相手の一社が野村アセットマネジメント社なのだ。
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