柏崎刈羽原発のテロ対策欠陥を生んだ背景事情 秘密主義がモラル低下に、安全審査でも甘さ

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核セキュリティで重大問題が相次ぎ発覚している柏崎刈羽原発(写真は2016年2月撮影、撮影:梅谷秀司)
東京電力ホールディングスの柏崎刈羽原子力発電所で、IDカードの不正使用や不正侵入の検知設備の故障放置などの不祥事が相次いで発覚。原子力規制庁が1年以上に及ぶ検査に乗り出すことになった。
東電でいったいなぜ、前代未聞の不祥事が多発しているのか。核物質防護(核セキュリティー)の問題にも詳しく、新潟県原子力発電所の安全管理に関する技術委員会の委員を務める原子力コンサルタントの佐藤暁氏に聞いた。

原発事業者としての適格性が疑われる

──柏崎刈羽原発では、外部からの不正侵入を検知する設備の故障が多発していたのにもかかわらず、長期間放置していたことが判明しました。

テロなどに見舞われた場合、取り返しのつかない事態になる。原発が立地する新潟県柏崎市や刈羽村の住民を始め、新潟県民の生命を危険にさらす深刻な問題だ。

東電の警備担当者が、有効な対策が講じられていないことを認識したにもかかわらず、是正措置が講じられていなかった事実も判明している。核セキュリティー体制が機能していない。

さとう・さとし/2002年までアメリカのGE原子力事業部の日本法人に勤務。同年に退職後、個人の原子力コンサルタントとして、沸騰水型原子炉プラントの検査、欠陥評価、補修、改造に関する新技術のほか、主にアメリカの規制情報を日本の顧客に提供(佐藤氏提供)

──原子力規制委員会は3月16日の臨時会合で、柏崎刈羽原発を安全確保の機能または性能への影響が大きい水準とされる「赤」と判定するなど東電の核セキュリティー体制にレッドカードを突きつけました。原子力規制庁は1年以上にわたる検査に入る予定です。

核セキュリティー分野で「赤」という判定は、日本で初めてというだけでなく、同種の検査制度を20年にわたって運用しているアメリカでも近年例がない。東電の核セキュリティーは最低レベルであり、原子力発電事業者としての適格性が問われる事態だ。

──柏崎刈羽原発では、中央制御室に立ち入る資格を持つ社員が同僚のIDカードを勝手に使って入室していた不祥事も判明しています。委託企業の警備員が社員の求めに応じて、同僚であるかのようにデータも書き換えていました。

こちらの問題について、原子力規制庁の重要度評価では二番目に重要性の低い「白」とされ、対応区分についても「第2区分」(事業者が行う安全活動に軽微な劣化がある状態)にとどめられていた。

問題の悪質性では、IDカードの不正使用は検知設備の機能喪失放置よりもむしろ重大であり、東電社内のモラルの低下を浮き彫りにしている。東電は社員がどのような職務に携わっていたかについて詳細を明らかにしていないが、意識的にルール違反する社員が原子炉の運転に関わっていたとしたら、重大事故を招きかねない。

(不正を行ったのが)運転機器の日常点検や保守点検に携わる職員だった場合には、記録改ざん行為を引き起こす恐れがある。いずれにしても恐ろしい事態だ。

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