ブラピ映画で脚光「野球の統計学」常識覆す凄さ 新たな戦い方をもたらした分析手法を解説

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ここでは、野球における得点期待値の考え方からセイバーメトリクスの理解を深めていこう。データの出所は野球のデータ分析を行うDELTA(デルタ)だ。2019年のNPBでは、ワンアウト1塁という状況が4550回あり、その回終了までに2355得点が入った。ある機会に対して、実際に何点入ったかを見るのが得点期待値なので、この場合2355得点÷4550機会=0.518得点が得点期待値となる。

2019年のNPBのデータを基にあるケースについて考えてみたい。

2019年NPBの全24種類の状況における得点期待値(画像提供:東洋館出版社)

例えば、ノーアウトランナー2塁という状況における得点期待値は1.080点だ。ここでヒットが出ればランナーが返り1点を取ることができ、ノーアウトランナー1塁の状況となる。ノーアウトランナー1塁の得点期待値は0.842なので、元の得点期待値1.080から0.238減ったことになる。しかし、ヒットのおかげですでに1点獲得することができている。

つまり、ノーアウトランナー2塁という状況で打たれたヒットは得点期待値をマイナス0.238点下げたが、実際に得点1を獲得したので-0.238点+1=0.762点分得点期待値をあげたことになる。

一方、送りバントをすると2塁ランナーが3塁に進塁し、ワンアウトランナー3塁になる。ワンアウトランナー3塁の得点期待値は1.005なので0.075(1.080-1.005)点分の得点期待値が下がってしまうことになる。ヒットと比較するとヒットの得点期待値のほうが0.687点(0.762点-0.075点)送りバントより高いことになる。

送りバントがあまり評価されない理由

セイバーメトリクスでは、送りバントというプレーがあまり評価されていない。それは、この例の通り、アウトと引き換えに塁を進めても得点期待値は下がってしまうという合理的な理由があるからだ。

この結果は平均的な打者が打席に立った場合のことなので、打つのが苦手な投手が打席に立ったときはアウトになる可能性が高まり、送りバントのほうが効果的だと言う人がいるかもしれない。しかし、打率1割3厘以上の成績をあげている選手であれば、ヒットを狙うほうが有効だという統計結果が出ている。

ロジックを元に話をすると、「それならばこういうケースはどうなの?」と反論する野球ファンは必ずいる。データと現実を比較しながら議論できるのが野球の面白さのひとつだ。セイバーメトリクスは、そうした議論に対して必ずしも正解を持っているわけではない。

しかし、議論が起きたときにデータを基にした根拠を示すことで「なるほど」と思わせるような合理的な考え方を用意している。

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