復興バブル一因…震災10年で増す「石綿」の恐怖 ずさんな建物の解体処理、問われる行政の責任

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人口動態統計によれば、石綿が原因とされる中皮腫による死者は1995年に500人。それが2015年には1500人超になった。20年間で3倍である。肺がんなどを含めると、日本だけで年間2万人超が石綿により亡くなっていると世界145カ国の研究者が協力して実施している国際研究で推計されている。

だが、こうした数字を並べてみても、なかなか実感は湧きにくい。冒頭で紹介した明石市の元職員・吉田さんは嘆く。

「自分たちの仲間が中皮腫になって、原因が石綿と言われて、そこで初めて、建材や小型家電といった不燃ゴミにたくさん石綿が入っていることを知りました。2005年には同じ兵庫県内で(尼崎市のクボタ旧工場周辺で住民の中皮腫被害が判明した)クボタショックもありましたけど、あれだけ騒がれても、自分たちに関わりがあるとは思えなかった。病気になって初めて知るんですよ」

阪神・淡路大震災の被災地でがれきの片付けに従事し、中皮腫を発症した5人の中には、わずか40日間しか作業していなかった人もいる。その人物は労災認定を受けたものの、発症から9カ月後に他界した。

延べ700万人のボランティアが活動した東日本大震災

東日本大震災で活動したボランティアは延べ700万人超という。がれき処理の現場にも大勢のボランティアが関わっている。彼ら彼女らは「石綿」を思い浮かべたことがあるだろうか。中皮腫の発症は石綿を吸ってから20~40年後である。

島谷さんは17年で発症しており、最も早い発症は10年だ。東日本大震災の現場で働いた人々から仮に石綿被害が出るとすれば、そろそろかもしれない。夫を失った島谷さんの妻は、こんな考えを披露している。

「なぜ夫はこれほど早く亡くならなければならなかったのか、私にはわかりません。夫は亡くなる寸前まで、自分の健康より、『こんなしんどい思いをするのは俺一人で十分だ。ほかにも同じような被害が出ては大変だ』と(震災の石綿問題に)取り組んでいた。命の重さを思ったとき、同様の事例を二度と発生させない取り組みが必要です」

井部正之(ジャーナリスト)/フロントラインプレス(FrontlinePress)

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「誰も知らない世界を 誰もが知る世界に」を掲げる取材記者グループ(代表=高田昌幸・東京都市大学メディア情報学部教授)。2019年5月に合同会社を設立して正式に発足。調査報道や手触り感のあるルポを軸に、新しいかたちでニュースを世に送り出す。取材記者や研究者ら約40人が参加。スマートニュース社の子会社「スローニュース」による調査報道支援プログラムの第1号に選定(2019年)、東洋経済「オンラインアワード2020」の「ソーシャルインパクト賞」を受賞(2020年)。公式HP https://frontlinepress.jp

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