復興バブル一因…震災10年で増す「石綿」の恐怖 ずさんな建物の解体処理、問われる行政の責任

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

石綿は熱や摩擦、酸、アルカリに強く、耐久性も高い。そして、安価。かつては「奇跡の鉱物」と呼ばれ、建材や工業製品に大量に使用された。

ところが、石綿は、髪の毛の5000分の1と極めて細いうえ、発がん性が高い。吸ってから数十年後に中皮腫(肺や心臓などの膜にできるがん)や肺がんなどを引き起こすことが明らかになり、「静かな時限爆弾」と呼ばれるようになった。

震災などの災害時に石綿が問題になるのは、約1000万トンに及ぶ過去の輸入分の約8割が建材として利用されたからだ。石綿を含む建材の出荷量は総計で実に4300万トン超に及ぶ。その多くが現在も全国各地の建物内に残っている。

危険性が最も高い吹き付け石綿だけでも約280万棟のビルに存在する可能性がある。約3300万棟の木造・戸建て住宅などの屋根や壁、内装材などにも含まれている恐れがある。私たちはそうした危険な“爆弾”だらけの場所で生活しているのだ。

福島県いわき市の災害廃棄物仮置き場の様子。袋の中は細かく割れた石綿を含む建材だらけ。割った際に石綿が飛散し、吸ってしまうことになる。2011年5月撮影(写真:井部正之) 

静かな時限爆弾は突如として牙をむく

震災などで被災すると、身の回りで眠り続ける“爆弾”が突如として牙をむく。吉田さんが震災時の石綿リスクを知るようになったのは、東日本大震災後の2012年6月だったという。同僚の島谷和則さんが悪性腹膜中皮腫を発症し、医師から「石綿を仕事で扱うことはなかったか」と聞かれたためだ。島谷さんは1年余りの闘病生活後、2013年10月に49歳で亡くなった。

中皮腫被害はほとんど石綿が原因とされる。被害の発生は石綿を吸ってから数十年後が多い。10~15年後という場合もあるとされるが、島谷さんの場合、1995年1月の阪神・淡路大震災のがれき処理に携わったことが一因だったと考えられている。

島谷さん自身、公務災害の請求時に関連の文書にこう記している。

「地震で壊れた建材やスレート板などのがれきが置かれており、積み込めるものはすべて収集してきました。がれきを含んだごみの収集は3カ月ほど続いた」

「収集車にがれきを積み込む際にまずほこりがたちますし、回転板で押しつぶす際にも割れてほこりが飛散していました。こうした積み込み作業の際に、がれきに含まれていた石綿粉じんが飛散し、吸引した」

しかし、島谷さんの発症は公務災害として認められなかった。審査請求も棄却。現在は島谷さんの妻が認定を求めて係争中だ。

次ページ阪神・淡路大震災で中皮腫を発症した人数は?
関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事