復興バブル一因…震災10年で増す「石綿」の恐怖 ずさんな建物の解体処理、問われる行政の責任

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阪神・淡路大震災で救護やがれき処理などの用務に携わり、それが原因で中皮腫を発症したとみられる人は、ほかにもいる。労災・公務災害認定を受けた人は、少なくとも5人だ。

【2021年3月22日13時00分追記】初出時、労災・公務災害認定を受けた人の人数について誤りがありましたので、上記のように修正しました。

では、東日本大震災でがれき処理などに従事した人たちはどうなのか。

2011年3月の大震災後、石綿調査で何度も被災地を訪れた分析機関の技術者は、ずさんな対策を目の当たりにしてきた。

「あのときの石綿対策は本当にひどかった。吹き付け材に石綿が入っていると知らせていたのに、自治体が『含まれていない』として解体した建物がいくつもあった。煙突や成形板なんて、調べもせずに壊しているところばかりでした」

吹き付け石綿は極めて飛散しやすく、最も危険性が高い。そのため、早くも1975年には原則禁止された。ただし、重量比5%以下は規制から除外されたことから、2000年代の建造物でも吹き付け材に石綿が含まれている場合がある。

また古い煙突の断熱材には、吹き付け材よりも高濃度の石綿が使用されることも少なくない。前出の技術者は言う。

「吹き付け材は調べることになっているだけまだましです。煙突については、東日本大震災当時、十分に知られておらず、調査せずに壊すところが圧倒的に多かった。解体業者に聞いたら『自治体から調べるように言われたのは、吹き付け材だけ』と反論されました」

津波被害を受けた宮城県石巻市の様子。一見ごく普通の風景だが、地面には危険性の高い吹き付け石綿が散乱(赤で囲った部分)。2012年1月撮影(写真:井部正之)

復興バブルが拍車をかけた「ずさんな解体」

警察庁によれば、東日本大震災の建物被害は全半壊だけで40万4912戸に達した。火災や床上・床下浸水、一部損壊なども含めると、その数は計120万6498戸に膨れ上がる。

大震災から2カ月後の2011年5月、環境省は復興の方針を示した。被災した建物については、1年以内に解体し、がれき処理まで含めて3年で完了させると宣言。1兆円超の予算を手当した。

自治体負担ゼロと期限1年。そのアメとムチで追い立てられ、被災地では一斉に解体が始まった。全国から建設業者が被災地に押し寄せ、「復興バブル」と呼ばれたほどだ。

東北に拠点を持つ老舗の石綿除去企業の声を聞こう。この会社の幹部はこう嘆いていた。

「地震と津波でこれだけ建物が被害を受けて、解体の仕事があるのに石綿除去の依頼がほとんど増えてない。どう見ても吹き付け石綿がある建物でも、除去作業の届け出が出てない。そう思っていたら(いつの間にか)解体されていた。そんなことはしょっちゅうでした」

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