「子どもの人権」を守るためにすべき4つのこと 小さな芽の段階でセンシティブになろう
加えて、「子どもの権利侵害」ということを広く捉える必要があります。「いじめ」「虐待」など、名前のついているものだけが権利侵害だと狭く捉えていると、「この件は深刻な状態ではなさそうだ」と、問題が見逃されてしまいます。権利侵害という認識の範囲を広げて、小さな芽の段階でセンシティブになってください。そのために、団体としての定義や共通認識を持たなければいけないのです。
共通の認識の1つとして、「起きないことを前提にしない」ということは大原則です。権利侵害はどんな場所でも、どんなによい人でも起こしてしまう可能性があります。ただし、その点を念頭に置いたうえで、さらに考えてほしいのは、問題が起きてしまったときに、加害者だけの問題にしても根本的な解決にはならない、ということです。そのような問題を許してしまった場・組織の構造自体を変えていかないといけません。
そもそも、大人と子どものあいだには圧倒的な力の不均衡があります。しかしその不均衡自体が悪いのではありません。大人がその力を乱用したときに、子どもへの権利侵害が発生するのです。そして、どんな人でも、力の乱用は起こりえます。こうした構造そのものを見る必要があります。
「あの人が力を乱用した」と個人の問題にしてしまうことは簡単です。しかし、ある1件の権利侵害が発覚するまでに、おそらくいくつも芽があったはずです。そしてそれをほかのスタッフは、気づいてはいても、そのままにしてきた。「あの先生はああいうやり方の人だから」と、見すごしてきた、そういう土壌が団体にありはしないでしょうか。権利侵害を起こした人を排除すれば、今後何も起きないかというと、そうではありません。やはり団体内の土壌そのものを変えていかないと、また新たな加害者が出てきて、いつまで経っても権利侵害はなくなりません。
正しい知識を
さて、子どもの安全のために大切なことの2つめは、「子どもの安全を守るための正しい知識とスキルを持つこと」です。暴力とは何か、人権侵害とは何か、なぜ人権侵害が起きるのか。大人の側にこうした知識・スキルが圧倒的に不足していると思います。大人に知識・スキルがないことで、子どももそれを学ぶ機会を持ちえないのが現状です。
それから、子どもの話を聴くスキルも必要です。「あの子とは信頼関係があるから話してくれるはずだ」と思っていても、実際はなかなか話せないこともあります。また、打ち明けられたときにどうするか。とくに性暴力の場合は、打ち明けられた側がどういう心理状態になるのかも含めて、知っておかなければいけません。
性暴力の場合、事案発生後、初期段階での聞き取りは、「聞きすぎないこと」が第一です。そして、できるだけ早く専門家につないで、団体としていっしょに取り組んでいく姿勢が求められます。正しい知識やスキルを、予防のために持つことが必要だと思います。
そして起きた事案については、当たり前のことですが、当事者の視点から考えること。先ほど力の不均衡の話をしましたが、いずれの暴力も、「イヤ」と言えない関係性があったり、被害者が「恥」の意識を持たされたり、罪悪感や無力感のなかで孤立していくことがあります。当事者の視点から見ることを心がけていかないと、そうした内面は見えにくいです。むしろ加害者の視点に巻き込まれ、「その程度のことなら」「その人なりに理由があったんだ」というような判断をされてしまうことが往々にしてあり、被害を受けた子どもたちが、どんどん孤立し、諦めていくという構図が、いろいろなところで起きています。